"昭和51年、閉山した炭鉱町から消えた父" 第9話
録音に残ったの声
テープは、音が歪んでいた。役の会議に、県の調査員、警察、古賀さん、母、私が集まり、録音を再した。最初はの音と、何かを引きずる音だけが続いた。途から、男の声が聞こえた。
「井、けるか」
それは父の声だった。次に、々しい別の声が答えた。
「が抜けない。ここが崩れたら、もう終わりだ」
井さんの声だった。
「焦るな。位はまだ膝までだ。の穴へける」
「修さんはどうする」
「俺は記録を取る。先にて、見たことを話してくれ」
「会社のが待っている」
「だからこそ、るんだ」
そこで、録音にきな音が入った。壁が崩れたような響きのあと、テープはしばらく無音になった。最に、父の声だけが残った。
「ここは塞ぐな。にいるを、記録から消すな」
録音はそこで終わった。父がそのどうなったかは、分からなかった。井さんが先に坑へたのか、父も戻ったのか。テープが見つかった所は通気穴の側で、坑内から持ちされたように見えた。
県の調査員は、録音と帳簿を照した。井さんの退職記録は、会社が説した付よりもに作られていた。事故が起きたとされる1112には、井さんの名がすでに「退職済み」とき換えられていた。会社は、彼が坑内にいたことを隠すため、帳簿を改めた能性がい。
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だが、録音だけで会社の責任を問うには、証言が必だった。瀬さんは病院から取り寄せた診断と、自分がで作業をした経緯を面にした。井さんの族を探すため、古賀さんは町の古い所録を調べた。
井さんの妻は、すでに別の県へ移っていた。連絡を取ると、彼女は夫が炭鉱を辞めて失踪したと聞かされ、、退職も補償も受け取っていなかったと話した。夫は町をたことがない。最に見たのは、閉に会社のへ乗せられただった。
「夫は、坑内で事故に遭ったんでしょうか」
彼女は話の向こうで泣いた。母は受話器を持つ私の隣に座り、黙って背にを置いた。
調査が始まると、会社は父が保管記録を盗みしたことを改めて主張した。父は会社の資料を正に持ちし、閉に方になった。会社は、彼を「逃げた」として扱い続けていた。
その主張を崩すため、私は父の帳の部を役へ提した。そこには、子だけでなく、母と私の検査結果もかれていた。族の健康記録が会社の台帳と違っていることが分かり、調査員は診療所の原簿を確認することになった。
原簿には、父が方になるに、診療所の医師へ宛てたメモが挟まっていた。
「族に説してください。私が戻れなくても、子の症状は治療を続けてください」
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母はそのを読み、唇を結んだ。父は族に何もらせずに消えたのではない。母には鍵を渡し、林さんには記録を託し、診療所には妹の治療を頼んでいた。それでも、私たちには何も言わなかった。
「説してくれればよかったのに」
私は母に言った。
「そうだね」
母の目から、涙が落ちた。
調査の結果、会社はでの未報告作業と、記録の改変を認めた。井さんは坑内でした能性がいが、遺体の確認には至っていない。父についても、坑内に取り残された能性があるとされた。閉鎖された坑は没しており、期の捜索は困難だという。
その夜、母のもとへ差のない封筒が届いた。には、古い炭鉱の名札がひとつ入っていた。
父の名札だった。
裏には、父の字でこうかれていた。
「のからた。へは戻れない」