"昭和51年、閉山した炭鉱町から消えた父" 第3話
封筒のの枚の記録
私は母が鉢へづくのを止め、のに残っていたの切れ端を拾った。焦げた文字はところどころ読めなくなっていたが、「」「位」「分」という言葉が残っている。母は私のからを取ろうとせず、箸を置いた。
「それを読んでも、何も変わらないよ」
「どうしてお父さんの帳面を燃やすの」
「残しておくと、困るがいるから」
「誰が困るの」
「あなたたちだよ」
私は、母の言う「あなたたち」が父ではなく、私と妹を指していることに気づいた。母は父を守っているのか、私たちを守っているのか。それとも自分が何かを隠しているのか。答えを決められないまま、燃え残ったを握りしめた。
翌、私は学帰りに、元炭鉱診療所で働いていた護婦の林さんを訪ねた。林さんは閉も町に残り、老たちの血圧を測ったり、薬を届けたりしていた。父が坑内で怪をしたとき、何度も当てをしたでもある。
林さんは私をへげると、湯呑みにほうじ茶を注いだ。
「修さんのことを聞きたいのね」
私が答えるに、彼女はそう言った。
「父は、閉に怪をしたんですか」
「怪はしていない。ただ、最のに度、診療所へ来た。息苦しさと、の震えを訴えていた」
「坑内の事故ですか」
「本は、事故ではないと言った。
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けれど、からとの匂いがしていた」
「何を調べていたんでしょう」
林さんは茶碗を両で包んだ。
「私には詳しいことは言わなかった。でも『古い測定器の記録がわない』と話していた。閉が決まってから、坑内の点検を急がせていたみたい」
「記録がわない?」
「ガスの数値よ。会社の保表には問題なしとかれているのに、修さんの帳には違う数字があったらしい。私は表を見ていないから、それ以は分からない」
林さんは、棚の奥からい封筒をした。封筒には、父の名がかれている。彼女はから、複写された帳票を2枚取りした。
1枚は会社の保記録で、番坑側の測定値が「異常なし」となっていた。もう1枚は、父がきで残した控えだった。そこには数値が記され、測定刻の横に「警報器反応」「換気止、再測定必」とある。付は閉のだった。
「どうして林さんが持っているんですか」
「修さんが、もし自分に何かあったら渡してくれと言ったの」
「母には?」
「お母さんには渡せなかった。あのは、もう分苦しんでいたから」
「父は、何が起きるとっていたんですか」
「事故を隠されるかもしれない、と言っていた」
私は帳票の数字を見つめた。父がいた数値が正しいなら、閉の坑内には危険があった。けれど、会社は問題なしと発表している。
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父はその違いを調べて、方になったのだろうか。
へ帰ると、母が玄関で待っていた。林さんから連絡があったのかもしれない。母は私のにある封筒を見ると、く息を吐いた。
「見たんだね」
「お母さんもっていたの?」
「全部はらない。でも、お父さんが会社に帳票をそうとしていたことはっていた」
「それなら、どうして探さなかったの」
「探していたよ」
「嘘。警察へ届けたあと、何もしなかった」
母は私の頬を打った。力はくなかったが、私のから帳票が落ちた。母はすぐに拾い、折り目を伸ばした。
「警察にも、会社にもった。何度もね。でも、お父さんが自分ので町をたという話にされた。退職を持ちした、借があった、別の町に女がいた。そんな話まで作られた」
「会社が言ったの?」
「そう。探すのをやめれば、あなたたちのむ所は残すと言われた」
その夜、母は初めて、閉に父を探しにったのことを話した。坑のくに父の自転があったが、警察が来たときにはなくなっていた。会社のが自転を移させたのを、母は目撃していた。だが、そのことを言えば、私たちまで社宅を追いされると脅された。
「それでも、父を探すのをやめたの?」
「やめていないよ」
母は、仏壇の引きしからさな鍵をした。
「お父さんが最に私へ渡したものがある。
これをければ、私が何をっていたかも分かる」
母が差しした鍵は、炭鉱の事務所で使われていた保管庫のものだった。