"寝室のベッドの下に隠されていたもの" 第1話
ベッドのの黒い目
「奥さん、く来てください。これは、掃除で触っていい物じゃありません」
寝から聞こえた清掃員の声は、つい数分までの穏やかなものとはまるで違っていた。私は洗面所で雑巾をすすぐを止め、濡れたまま廊をった。
かしていなかった製ベッドは、壁からセンチほど引きされていた。にはのが帯のように積もり、湿った属にも似た臭いが漂っている。最、掃除をかけても数で戻ってきた汚れの正体を調べるため、私は寝具専の清掃業者を呼んだのだった。
作業員の坂本はに膝をつき、片にライトを握ったまま固まっていた。顔が悪い。彼が指したベッド央の裏側には、フレームと同じ茶に塗られたい箱が貼り付けられている。
「絶対に触らないでください。ここ、レンズが見えます」
私は隣へしゃがみ、暗い隙を覗き込んだ。の先にあったのは、埃でもカビでもない。豆ほどの丸いレンズと、そこから延びる細い配線だった。黒い箱の脇には集音マイクらしい穴があり、さらに奥には古いスマートフォンと型の送器のような装置まで固定されている。
そのレンズは、枕のある方向へ正確に向けられていた。
私は歳になるまで、恐怖で声がなくなるという覚をらなかった。
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鳴すら浮かばず、ただ自分と夫が眠ってきたベッドを見つめた。ここで着替え、をして寝込み、叔母の葬儀から戻った夜には目もはばからず泣いた。その全部を、誰かがから見ていたのだ。
「いつから、こんな物が……」
「分かりません。ただ、粘着剤がかなり劣化しています。最つけた物ではなさそうです」
坂本は、私が伸ばしかけたを静かに止めた。械をせば、誰が置いたのか分からなくなるかもしれない。彼はそう説し、警察へ連絡するよう勧めた。
私は反射に夫の正へ話しようとした。結婚して、何か問題が起きれば最初に相談する相はいつも夫だった。財務コンサルタントとして独した正は数字にく、取り乱す私に「つずつ理しよう」と言ってくれるだった。
けれども発信ボタンを押す寸、の会話がよみがえった。
「ベッドのから変な臭いがするの。業者に見てもらおうとう」
そう告げた、正の表は瞬だけ消えた。彼はすぐ「も使ったんだから買い替えればいい」と笑ったが、清掃をしつこく確認し、仕事を休んで自分がち会うとまで言った。今になって急な顧客対応が入ったと言い、朝くをたのだ。
私は夫ではなく、叔母の相続を担当した弁護士へ話した。
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事を聞いたは、装置へ触れずに通報し、夫にもらせないよう言った。
「今の段階で犯を決めつけてはいけません。ただし、ご自の全を最優先にしてください。私もそちらへ向かいます」
分、の警察官が到着した。現写真を撮り、袋をして装置をつずつ取りしていく。送器に見えた物には、空になったさな容器が接続されていた。警察官は臭いを確かめようとせず、それも密封袋へ収めた。
「奥さん、ベッドの裏にもうつあります」
古いスマートフォンの奥から、黒い布袋がてきた。に入っていたのは現でも貴属でもない。私が叔母から相続した財産の覧表、そのコピーだった。
預、産、投資信託をわせて約億千万円。原本はの貸庫へ入れ、には置いていない。、更分を確認するため私が斎でいた資料が、そっくり複写されていた。
さらに、そのから〈委任状〉と印刷された類が現れた。委任者は私、受任者は夫。産の売却、預の解約、証券取引まで、私の財産をほぼ無制限にかせる内容である。署名欄は空だったが、押印欄の横には、私の実印をいに何度も試し押しした跡があった。
最の枚を見た、私はへ座り込んだ。
〈島怜奈・活能力観察記録〉
付ごとに、夜に起きた回数、薬をんだ刻、朝の痛、鍵や財布を探した回数が記されている。
には、夫の字でい指示があった。
〈映像をあとか分確保。本が自己管理能と認めた段階で、委任状へ署名させる〉
私は病気になりかけていたのではない。
誰かが、私を病気に見せるための記録を作っていた。