"50歳の再婚、披露宴で知った夫の嘘" 第15話
緑のと、剥奪された名刺
「サインしなさい、正さん」
私が差ししたのは、緑の枠線で印刷された類――婚届だった。
妻の欄には、私の旧姓である『玲子』の署名と、私の実印が鮮に捺印されている。
「……婚届……?」
に顔を押し付けられたまま、正が掠れた声を絞りした。
「嫌だ……サインなんかしない……! 婚届に判を押したら、僕には本当に何も残らないじゃないか……! 頼む、玲子、もう度だけ話しおう! 居の具も、おの好きなものに全部買い換えるから! 母さんとは完全に縁を切るからさ……!」
どこまでも自分の保しかにない男の、願。
幸恵が目を伏せ、さく首を横に振った。
「林」
神崎事部が、徹な事実を告げた。
「君がこので私な清算――すなわち婚、ならびに被害者への弁済に応じない、が社は警察への被害届提、ならびに横領・偽造の刑事告発に踏み切らざるを得ない。……そうなれば、逮捕・起訴は免れないぞ」
「ひっ……!?」
「懲戒解雇は避けられないが、示談が成していれば、会社としても刑事告訴だけは見送る余がある。……どちらを選ぶかは、君の自由だ」
逮捕という現実の刃を喉元に突きつけられ、正の体から急速に力が抜けていった。
総務部員が拘束を緩めると、正はにへたり込み、震えるで胸ポケットから万を取りした。
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インクで汚れた指先。
涙とでぐしゃぐしゃになった顔で、夫の欄に『林正』とき殴る。
そして、剛叔父から渡された朱肉に印鑑を押し、掠れた印を残した。
カシャリ。
私がスマートフォンで、完成した婚届を撮した。
証欄には、すでに神崎事部と剛叔父の名が、公な第者として署名捺印を済ませていた。
「確かに、受け取りました」
私は婚届をクリアファイルに収め、く礼した。
「これで、私とあなたの関係は完全に終しました。です」
直、神崎部が正の胸元を指差した。
「林。社員証と、社章、そして名刺入れをしなさい」
正は呆然としながら、首からげていたIDカードをし、ジャケットの襟からに輝く社章を引き抜いた。
、彼が世体を保つための鎧として誇らしげににつけていた、都エレクトロニクスの象徴。
それが、事部ののひらのへと音をてて回収された。
「本をもって、君を勤止処分とする。自席の私物をまとめ、警備員の誘導に従って直ちに退館しなさい。……正式な懲戒処分の通は、追って自宅へ送付する」
「あ……あ……」
声にならない呻きを残し、正は力なくちがった。
背は曲がり、取りは覚束なく、まるで瞬にしても老いた霊のようだった。
部をていく背に、誰として声をかける者はいなかった。