"50歳の再婚、披露宴で知った夫の嘘" 第1話
砂のマイクと凍りついた嫁
「では皆さま、私からも言、ご挨拶を申しげます」
華やかなシャンデリアのがり注ぐ、都内名ホテルの披宴会。
井のスピーカーから響き渡った私の声は、司会者が慌てて音量を絞るほどに澄み渡り、そして張り詰めていた。
砂のメインテーブル。私の隣で、義母の林幸恵(こばやし・ゆきえ、歳)は、淡い藤の加賀友禅の着物の襟元を誇らしげに正しながら、満面の笑みを浮かべていた。
ほんの数秒、彼女が親族代表の挨拶としてマイクを握り、会の親族や友たちに向かって放った「爆弾」の余韻が、まだフロアの空気をく支配している。
『――玲子さん。これからは仕事を辞めて、から私の介護をよろしくね。息子がね、「母さんの老は全部しい嫁に任せるからしろ」って、男らしく約束してくれたのよ。これで私も泰だわ』
悪気など微もない、無邪気で残酷な、からの堵の笑顔。
親戚同のテーブルからは「おお、さすが男だ」「嫁の本だな」という無責任な歓声と拍ががっていた。
私は、息を呑んだまま、隣に座る郎――夫の林正(まさと、歳)へと線を向けた。
しかし、仕てのいいタキシードにを包んだ正は、私の線に気づいた瞬、ギクシャクとした作で骨に目をそらした。
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母親の言葉を否定するでもなく、マイクを奪い返して訂正するでもない。ただ顔面を青ざめさせ、膝ので組んだ両をギュッと握り締め、卑屈な笑みを浮かべて俯いている。
――その瞬、私のので、何かがたく音をてて砕け散った。
歳での再婚。
の夫と別してから、物流会社の管理部で臭くキャリアを積みげ、トラックの配トラブルや労務問題と夜遅くまで戦い、ようやくに入れた自分名義の賃貸マンションと、誰にも依しない経済自。
病気のに互いを気遣い、老のを分かちえる対等なパートナーとして、私はこの「穏やかで誠実な男」を選んだはずだった。
『玲子は仕事を辞めなくていい。母との同居は絶対にしない。介護を玲子の役割に押し付けるような昭の価値観は、僕が絶対に許さないから』
プロポーズの夜、正が私のを握りしめて誓ったあの言葉は、体何だったのか。
波をてないため、勢の招待客ので恥をかかせないため、ここで笑いを浮かべて頷けば、私はから「従順な無職の介護員」としてを消費されることになる。
私は純のドレスの裾を静かに払ってちがった。
司会者が差しそうとしたワイヤレスマイクを自らのでしっかりと握り、テーブルのに置いていたビーズのクラッチバッグをいた。
取りしたのは、私のスマートフォン。
「先ほど、お義母様より温かい(・・・・)お言葉を頂戴いたしました。ですが、ここで皆さまに、結婚を決めるにあたり正さんから私へ送られてきた、切なメッセージをご紹介させていただきます」
画面のロックを解除する指先は、りでわずかに震えていた。だが、私の声はミリもブレなかった。
「『――仕事は絶対に辞めなくていい。母との同居はしない。介護を玲子の当然の役割にすることは絶対にないから、して僕と結婚してほしい』。……送信は、今の、午分です」
読み終えた瞬、華やかだった会の空気が、まるで液体窒素をぶち撒けられたかのように完全凍結した。