"娘の就職祝いで夫は私を泥棒と呼んだ" 第1話
祝いの席に置かれた婚届
「会社から千万円を移しました。見つかるに、帳簿も処分します」
級ホテルの個に、私の声が流れた。
。娘の千が夫の品会社へ入社した夜だった。赤飯と鯛の皿が並び、夫の隆司、義母の富美、会社の幹部までが、入社員になった千を祝うため集まっていた。ところが乾杯が終わると、隆司はスマートフォンをテーブル央へ置き、何の説もなく録音を再した。
聞き違えるはずがなかった。く抑えた話し方も、語尾の癖も私のものだった。ただ、そんな言葉をにした覚えはない。
録音が止まると、義母がちがった。次の瞬、グラスのワインが私の顔と胸へかかった。
「も族の顔をして、会社のを盗んでいたのね」
千は青ざめ、私と父親を交互に見た。隆司は紺の封筒から婚届とをし、濡れた私のへ滑らせた。
「今署名すれば、警察には届けない。退職も請求しない。そのかわり、会社と千に度とづくな」
「この録音は、いつのもの?」
私が尋ねると、隆司は待っていたように答えた。
「、午分。階の経理だ。防犯システムの音声記録に残っていた」
「誰が見つけたの?」
「顧問の原さんだ。君が消したデータを復元してくれた」
原玲奈。半、隆司が連れてきた歳の経営コンサルタントだった。
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私から経理権限を取りげ、若い専へ任せるべきだと提案した物でもある。
「お母さん、本当にやったの?」
千の声は震えていた。私は「違う」と言いかけ、やめた。ここでに否定しても、用された証拠との線には勝てない。
私はを最初から読んだ。婚そのもの、互いの財産、会社への接触禁止。だが千万円を盗んだと認める文言はない。隆司は、私が録音を本物だとって慌てて署名すると考えていたのだろう。
私は婚届にだけ署名し、はバッグへ入れた。
「弁護士に見せてから返事をします」
隆司は瞬満そうな顔をしたが、すぐ堵した。私が逃げるとったのだ。
私は濡れたのまま席をった。個をる直、もう度だけ振り返った。
「の分ね。違いない?」
「何度聞いても同じだ」
その刻、私は会社にはいなかった。
民病院の術で、全麻酔を受けていた。