"兄の結婚式に、実の妹の席だけありませんでした" 第5話
当、私は元のの、兄は私学ので就職活の真っ只だった。額な術費用と入院費、途絶えた父の収入。の活は瞬くに困窮の底へと沈んでいった。
あの、誰が自分の学業を諦め、朝から晩までをにして働いたのか。誰が兄の卒業までの学費を稼ぎし、計の穴を埋め続けたのか。
族のために尽くし、自分の代の青をすべて差ししてきたはずの私が、なぜ兄ののれ台から、ゴミのように掃きされなければならなかったのか。
学歴がないからか。度結婚に失敗し、歳で婚しているからか。でさな仕てをやっている自営業のなりが、名であるゆかさんの親族にお見せできない「恥」だったからか。
母にとって、私は族の美しい経歴にを塗る、隠しておきたい欠陥品だったのだ。
翌朝、私はアラームが鳴るに目を覚ました。たいで何度も顔を洗い、鏡のの自分を睨みつけた。瞼は赤く腫れていたが、胸の奥底にあった濁ったしみは、驚くほどく徹な静寂へと変化していた。
誰かの都のいい見栄のために、私のを惨めなものにしてたまるか。
私には私のがあり、私を信頼してを預けてくれる客がいる。誰に恥じることもない、自分ので築きげてきた活がある。
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族が私を切り捨てたとしても、私自が自分の歩んできたを否定する理由など、どこにもないのだ。
札幌から羽田への帰りの便に乗り込む直、私は空港の搭乗でぶりにスマートフォンの源を入れた。
画面がちがると同に、何件もの通が崩のように押し寄せてきた。数件の顧客からの問いわせ、恵子からの「落ち着いたら連絡してね」という気遣いのメッセージ。
そして、母や兄からの着信履歴は——予通り、ただの件も残っていなかった。
彼らにとって、私がどこで何をしていようと、あの美しいの祝宴が無事に終わりさえすれば、どうでもいいことだったのだ。
曜の午。私は普段通りにのシャッターをげ、預かっていた紳士物のスラックスの裾げに取りかかっていた。ミシンの針が布を規則正しく貫くダダダダという音が、静かな内によく響く。常のリズムを取り戻すことだけが、私を確かな現実に繋ぎ止めていた。
午過ぎ、作業台の隅でスマートフォンがく震えた。
画面に浮かびがった文字を見て、私のはペダルから自然とれた。
『津 幸介』
式の、初めての接触だった。モーターの回転が完全に止まり、静まり返った内で、私は数秒その名を見つめ続けた。
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ないという選択肢もあったが、逃げたとわれるのはぬよりも嫌だった。
息をえ、通話ボタンをスライドさせる。
「……もしもし」
「あ、理? 今、丈夫だったか?」
スピーカーから聞こえてきた兄の声は、妙に擦っていた。子どもの頃から、彼がろめたい隠し事をしているに特の、落ち着きのないトーンだった。
「仕事だけど、何か用?」
「いや……その、あれだよ。旅、どうだったのかなとって」
その言がにび込んできた瞬、のでバラバラに散らばっていたたいパズルの破片が、音をてて噛みった。
兄は、っていたのだ。
私が式の当にへっていたことを。すなわち、私が自分の結婚式に招待されていないという事実を、最初から完全に把握していたということだ。
「……楽しかったよ。美しいものもたくさんべたし」
私の声は、自分でも驚くほど淡で、乾いていた。
「そうか! 良かったよ。理は昔から欧とかの景が好きだったもんな」
受話器の向こうで、兄が目に見えて堵の息を漏らしたのが分かった。私が旅を楽しんで嫌を損ねていないのなら、この件は波てずに丸く収まる——そう都よく解釈したのだろう。兄は昔から、の痛みに鈍で、自分にのがりかからない結末だけを無邪気に欲しがる男だった。
「お兄ちゃん」
「ん? 何だ?」
「結婚式、どうだったの?」
私の静かな問いに、話の向こうの空気が瞬で凍りついた。