"月給55万円を削られた古参社員の静かな逆転" 第13話
業務横領と背任の容疑で逮捕された田は、警察の取り調べに対し、今なお取り乱しながら責任を押し付けっているという。方、個資産のすべてを差し押さえられた鈴元社は、妻からも見限られて婚され、雇いの解体現で借の返済に追われる々を送っているとの噂に聞いた。
だが、そんなニュースも、今の佐藤のにはさざ波つてることはなかった。
夕方分。 グループ傘のITソリューション企業「テクノロジー」の役員フロアに、穏やかな終業のチャイムが鳴り響いた。
「佐藤専務、本の業務報告でございます。現の若エンジニアたちから、佐藤専務のきのチェックリストのおかげで、納品のなバグが件も未然に防げたと、謝の声が届いております」
秘の女性が、尊敬のを込めた笑顔で類を差しした。 広々とした役員のデスクには、最鋭の端末とともに、あの使い古された黒革の帳が誇らしげに並んでいた。
「ありがとう。彼らにも伝えておいてくれ。『データは嘘をつかないが、データの隙を埋めるのはの目配りだ』とな」
「かしこまりました。それでは、お先に失礼いたします」
定で会社をられる幸福。 かつては終までオフィスにいつくばり、を削ることが当たりだった々をえば、茜に染まる丸の内のオフィスを自分ので歩いて帰れること自体が、まるで奇跡のようにえた。
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最寄り駅のスーパーにち寄り、妻の好物である季節のぶどうと、夕用にし等な牛のパックを買い求める。ビニール袋を提げて歩く宅のは、落ち葉がカサカサと鳴り、よいが頬を撫でていた。
自宅の玄関ドアをけると、汁の効いた煮物のばしい匂いが漂ってきた。
「ただいま、由美」
「お帰りなさい、あなた! 今もかったのね」
キッチンからエプロン姿の由美がりで迎え、佐藤のから買い物袋を受け取った。その顔には、ヶの怯えやのは微もなく、柔らかなの陽だまりのような笑みが満ちていた。
「見て、あなた。美しそうなマスカット! に緒にいただきましょうね」
「ああ、そうしよう」
居の卓には、湯気をてる肉じゃがと、炊きてのご飯、そして由美が丁寧に淹れてくれたいほうじ茶が並んでいた。 でをわせ、「いただきます」と声を揃える。
テレビのニュースでは、世の移り変わりや景気の話題が流れていたが、この温かなリビングを満たす穏やかな空気には何の響も与えなかった。
、理尽に耐え、をすすりながら守り抜いてきた誠実さ。 あのたい社で突きつけられた「万円の減額」という非な宣告は、絶望の始まりなどではなかった。な鎖を引きちぎり、本当に守るべき切なと、自分自の誇りを取り戻すための、神様がくれた最の転だったのだ。
「あなた、のお弁当、何がいいかしら?」
「そうだね……君の作った卵焼きがあれば、それだけで分だよ」
顔を見わせて、は自然と微笑みった。
窓のでは、静かなの夜空に、美しいが冴え冴えと輝いていた。 湯呑みからちる湯気を眺めながら、佐藤は確かな温もりを両の掌で包み込み、というしいに向けて、静かに、そして力く微笑んだ。