"月給55万円を削られた古参社員の静かな逆転" 第4話
「ご配には及びません」佐藤は静かに告げた。「先ほども申しげた通り、私はもう退職いたしましたので」
「おい、本気で言っているのか!? 待て、のグループとの契約更会議はどうするつもりだ!?」
焦りを滲ませた社がわずを乗りそうとした瞬、センサーのを過ぎたエレベーターの扉がスーッと閉まり始めた。属の扉の隙から見えたのは、苛ちとで醜く歪んだ代目の横顔だった。
カチャリと扉が完全に閉じ、していくモーター音がざかっていく。
佐藤はく息を吸い込んだ。肺腑に満ちる空気は、驚くほどたく、そして澄んでいた。、肩のに張り付いていた目に見えない圧が、潮が引くように消えっていくのをじていた。
翌朝。
鳥のさえずりで目を覚ました佐藤は、久しぶりに目覚まし計の音に追われない朝を迎えていた。 リビングのカーテンをけると、柔らかなの陽が庭の芝を照らしている。キッチンからは、トーストのばしい匂いと、淹れたてのコーヒーのりが漂っていた。
「おはよう、あなた。よく眠れた?」
エプロン姿の妻・由美が、穏やかな微笑みを浮かべてマグカップを差ししてくれた。
「ああ、驚くほどぐっすり眠れたよ。平の朝に、こうして君の顔を見て朝をべるなんて、ぶりかもしれないな」
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「ふふ、なんだか昨より歳くらい若返ったみたいよ。顔のシワがすっきり伸びてるわ」
「そうかい? 気の持ちようというのは恐ろしいものだな」
は顔を見わせて笑いった。 毎朝の満員に揺られ、胃を痛めながらそのの数字を追いかけていた々が、い過のことのようにえた。理尽な侮辱から自らを切りすという決断が、これほどまでにを軽くするものなのかと、佐藤は染み入るように実していた。
だが、佐藤が穏やかな朝を噛みしめていたその刻、株式会社鈴のオフィスには、文字通り「破滅の音」が迫っていた。
午分。 社した田は、自のノートパソコンをき、全社導入したばかりのクラウドシステムを起させていた。
「ふん、佐藤の野郎、引き継ぎデータなんてほとんど残してきやがらなかったな。まあいい、契約の雛形と請求額の履歴さえあれば分だ。今のビジネスはスピードですよ、スピード」
田は交じりにキーボードを叩き、グループをはじめとする主取引先社に向けて、械な斉送信メールを括配信した。 文面は、定型の契約更案内と、振込座の変更通、そして担当者が自分に変更された旨を告げるたい数のテキストのみ。
田はらなかったのだ。
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彼がゴミ箱に放り込んだ佐藤の古い帳のに、どれほどな「取扱注」の警告が記されていたかを。 そして、その送信ボタンつが、会社を崩壊へと導く導線にをつけたという事実に、傲な若きリーダーはまだ気づいていなかった。
穏やかな朝を終え、佐藤が庭の植にをやろうとちがった午過ぎ。 リビングのサイドボードに置いてあった佐藤の私用スマートフォンが、ブブッ、ブブッとい振音をてた。
会社の社用携帯は昨夕、デスクのに置いてきた。私用の番号をっているのは、ごく親しい友か親族のみのはずだった。鈴社か田が、事記録から番号を引っ張りして泣きついてきたのだろうか。
画面を覗き込んだ佐藤は、息を呑んだ。 ディスプレイに表示されていたのは、登録のない局番——だが、で何千回、何万回とダイヤルし、脳裏に焼き付いてれない特別な数字列だった。
本の産業界でその名をらぬ者はいない巨コングロマリット、グループのトップ直通番号。
「……会?」
佐藤は慌てて通話ボタンをスワイプし、に当てた。
「もしもし、佐藤でございます」
『佐藤君かね。朝くからすまないね』
受話器の向こうから聞こえてきたのは、鳴りのようにく、しかし議な温かみを帯びた老練な声だった。
グループ総帥・宗郎(たかはし そういちろう・歳)。