"妹に夫を譲れと言われた結婚式の翌朝" 第12話
狂のごときその叫びに、部の空気が完全に凍りついた。
階からは、騒ぎを聞きつけた蓮と陸が起きてきて、階段のから恐る恐る覗き込んでいるのが見えた。
「ママ……? パパ……? どうしたの……?」
子どもの震える声が聞こえた瞬、私ので、何かが完全に音をてて千切れた。
「百」
私は妹のに歩み寄った。私の顔から、すべてのが消え失せていた。
「あなた、子どもたちのいるで、よくもそんな劣な真似ができたわね。……もう、度と私のに現れないで」
「ふん、お姉ちゃんに言われる筋いは——」
百が嘲笑を浮かべかけた、その瞬だった。
ドゴォッ!
く鈍い音が響き、百の体が横へと吹きんだ。
客の畳のに倒れ込み、頬を押さえて目を黒させる百。殴ったのは、私ではなかった。
父だった。
父の拳が、りで激しく震えていた。かつて百を誰よりも溺し、蝶よよと育ててきたあの父が、自らので娘を殴りばしたのだ。
父の顔は、般若のように恐ろしく歪み、その双眸からは血の涙を流さんばかりの激と、底れぬ絶望が溢れしていた。
「お、お父さん……? 私を……殴ったの……?」
百はにいつくばったまま、腫れがった頬を押さえて呆然と父を見げた。
「殴るどころか、殺してやりたい気分だ」
父の声は、獄の底から響いてくるようにく、酷だった。
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「男の寝込みを襲い、妹の夫を奪しようとするような恥らずを……俺は育てた覚えはない。おはじゃない。の形をした悪魔だ」
「お父さん、違うの! お酒に酔ってて、ちょっと魔が差しただけで——」
「黙れッ!」
父のに、全体がビリビリと震えた。
「酔っていたから何だというんだ! 酒をんでるこそが、貴様の浅ましい本性そのものだろうが! ありさがどれだけを痛め、君がどれだけして、おを許して実に迎えてくれたとっているんだ! その恩を仇で返し、あまつさえ幼い孫たちの目ので、こんな破廉恥な真似を晒すとは……!」
父は百の胸元を掴みげ、引きずり倒すようにして玄関へと向かった。
「痛い! して! お母さん、助けてよ!」
百が鳴をげながら母に救いを求めたが、母は顔を背け、たい声で言い放った。
「助けるわけないでしょ。あなたのような娘を持ったことが、私の最の恥だわ。度と私の界に入らないで」
玄関ホールに放りされた百のに、父は階からかき集めてきた百の荷物を、階段のから容赦なく投げ落とした。スーツケース、コート、化粧ポーチが、に散乱する。
父は玄関の引き戸を力任せにけ放った。
は、晦の夜の氷点の気が渦巻き、いがい散っていた。
「てけ」
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父はを指差した。「度とがの敷居を跨ぐな。番で庭裁判所へき、おとの親子の縁を切る続きを取る。戸籍からも抜いてやる。おがどこで野垂れのうが、誰に殺されようが、俺たちには切関係ない」
「嘘でしょ……? お父さん、冗談よね!? こんな真の夜に追いされたら、私、凍えんじゃうよ!」
百はのるタタキにへたり込み、父の元に縋り付いた。だが、父はそのをけ容赦なく靴の先で振り払った。
「ねばいい。これ以、に迷惑をかけるにんでしまえ」
その言葉には、切の迷いも温もなかった。
百は恐怖に引き攣り、私との方を見た。
はまだ部の隅で毛布を被り、汚らわしいものを見るような目で百を拒絶していた。私もまた、徹な線を投げ返すだけだった。
「……みんな狂ってる! こんな、こっちから縁を切ってやるわよ!」
百はのに転がったコートをひったくるように羽織り、散らばった荷物を抱えて、裸にパンプスを引っ掛けると、のる夜ののへと逃げるようにりっていった。
ざかるハイヒールの音がに吸い込まれ、やがて完全な静寂が戻ってきた。
父はのい込む玄関ドアを、ドォンとい音をてて閉めた。
そして、そのに崩れ落ちるように膝をつき、両で顔を覆って声を殺して泣き崩れた。
「すまなかった……ありさ、君……本当に、すまなかった……俺が、あんな化け物に育ててしまったんだ……」