"妹に夫を譲れと言われた結婚式の翌朝" 第5話
「私、妊娠したの。……お腹のに、アキちゃんの赤ちゃんがいるのよ」
ダイニングの空気が、瞬にして凍結した。
「……は?」
私のから、気の抜けたような声が漏れた。は目を黒させ、をパクパクと魚のように閉させている。
百は勝ち誇った顔で、歩にた。
「黙ってたけど、もう隠しきれないから言いに来たの。私、アキちゃんの子をごもってるのよ。アキちゃん、父親としての責任、取ってくれるわよね?」
「な、ななな……何を言ってるんだ百ちゃん!? 俺とおがそんな関係になるわけないだろ!」
が髪を振り乱して激しく首を横に振る。その取り乱し方は、潔を証しようとするあまり逆に怪しく見えかねないほどオーバーアクションだったが、それ以に凄まじかったのは父の剣幕だった。
父は百の肩を抱き寄せ、の胸ぐらを掴まんばかりの距まで詰め寄った。
「見苦しい言い逃れをするな! 百が嘘をつくはずがない! 結婚式の夜、百がで部で泣いているのを見かねて問い詰めたら、すべてを状したんだ! おが言葉巧みに百を誘惑し、関係を持った挙句にポイ捨てしたとな!」
「お父さん、落ち着きなさいって! アキちゃんがそんなことするわけないでしょ!」
母が必に父の腕を引くが、逆した男の力には敵わない。父は私に向き直ると、実の親とは到底えない、狂気じみた宣告を突きつけてきたのだ。
広告
「ありさ、聞け。おたちには幸い、まだ子どもはいない。籍を入れたばかりなら、ペーパー枚で婚も取り消しもできる! だが、百の腹にはしい命が宿っているんだ! 父親のいない私児にするわけにはいかん! ここは姉のおがを引け! 君を百に譲るんだ!」
——君を、妹に譲れ。
を鈍器で殴られたような衝撃だった。結婚式の翌朝、自分の夫を妹に譲れと平然と命じる父親。このは、本当に私の父親なのだろうか。百への偏は、ここまでの倫理観と理性を破壊してしまうのか。
百は父の腕ので、勝利を確信したように元を歪め、私を見していた。
「そうよ、お姉ちゃん。私からアキちゃんを奪った罰よ。さっさと婚届にサインしてていってよ。このも、アキちゃんも、これからは全部私のものなんだから」
激しいりと侮蔑で、全の血が逆流しそうになった。
しかし——。
私はふと、ある決定な違に気づいた。私のので、信の窓で培われた徹な計算と照のスイッチがカチリと作した。
「……ちょっと待って」
私はややかな声で、百の目をまっすぐに見据えた。
「百。あなた、今妊娠何ヶなの?」
私の唐突な問いに、百は瞬だけで笑い、自信満々に胸を張って答えた。
「ヶよ! ちょうどヶ、実のくのホテルでアキちゃんと会ったの! 言い逃れなんて絶対にさせないんだから!」
広告
ヶ。
その言葉が、百のからびした瞬だった。
私の脳内で、ある烈な景がフラッシュバックした。救急のサイレン、真っ赤に腫れがった患部、そして病院のベッドで「俺はもう男として終わった……」と涙を流していたけない男の姿。
私は横につを見た。
もまた、目を丸くして私を見ていた。
の線が交錯し、百の言った「ヶ」というタイムスタンプを完全に共した、まさにその刹——。
「「ぶっ……!!」」
信じられないことに、私とのから、同に噴きすような笑い声が炸裂した。
「あっははははははは! ちょっ、アキ、聞いた!? ヶだって! ヶ!!」 「ぐふっ……ひ、酷すぎる……! あーっはっはっは! 腹痛い、ぬ! 助けてくれありさ!」
ダイニングのに崩れ落ち、腹を抱えて涙を流しながら爆笑する私たち婚夫婦。
り狂っていた父も、取りすがる百も、止めに入っていた母も、完全に虚を突かれてのように固まっていた。
「な、何がおかしいのよ!? 狂ったんじゃないの!?」
百が顔を真っ赤にして切り声をげた。勝ち誇っていたはずのシナリオが、予の爆笑によって完全に狂わされ、激しい揺がその瞳にっている。
「ふざけるな、ありさ! 君!」父の声が再び轟く。「実の妹のな告を、何をヘラヘラと笑いばしているんだ! 恥をらんか!」