"万引きを疑われた私に、警備員が「六万円で見逃す」と言ったので父に電話した" 第4話
父への話
「スピーカーにしろ」
塚が腕組みをした。私は言われたとおり通話画面のスピーカーボタンを押した。度目の呼びし音で、父のい声が聞こえた。
『紗季か。買い物は終わったのか』
「まだ。館階のルーチェで、万引きをしたと言われて、旧警備控にいる」
向かいのが同に顔をげた。私はを挟まず、事実だけを並べた。バッグのポケットから見覚えのないネックレスがたこと。警察を呼ぶよう求めたが拒まれたこと。万円を現で払えば見逃すと言われ、確認への署名を迫られていること。扉には鍵がかかり、分証を置いてATMへくよう求されていること。
『怪は』
「肩を押されて、子が壁に当たった。でもける」
父は沈黙した。鳴ることも、相へ話を代われと言うこともなかった。その静けさが、私にはかえって恐ろしかった。
塚が机へを乗りした。
「お父さんですか。娘さんの将来を考えるなら、万円を持ってきてください。こちらも穏便に済ませたいんでね」
『あなたは?』
「警備の塚です。分以内に。余計なは連れてこないでください」
『分かりました。万円ですね』
父の返事を聞き、塚は満そうに頷いた。佐々は私のへ確認とボールペンを押しした。
「が来るまでに署名しろ」
『紗季、そこにいるへ伝えてくれ。
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現は私が直接渡す。署名はそれまで待ってほしい』
「だそうです」
私は通話を切った。父なら、私の説だけで必な準備を理解する。旧警備控という所をにしたのも、救先をらせるためだった。
佐々は堵したのか、煙を吸いたそうに指をかした。
「最初からそうすりゃいいんだ。親は変だな、こんな娘を持つと」
「父が来たら、ネックレスも渡してください」
「証拠品だから駄目だ。を受け取った、こっちで廃棄する」
「盗まれた商品を廃棄するんですか?」
「縁起が悪いんだよ」
彼らの説は、もう体裁すら保っていなかった。私は机ののネックレスを見つめた。千百円の商品で万円を奪い、証拠は消し、被害者自の署名でを塞ぐ。相談されても「本が認めた」と言える仕組みだ。
端末が震えた。久保田から、黒瀬のアクセス履歴と削除のデータを保全したという連絡だった。同に、別のい報告が届く。
〈古い相談記録を照。昨、松本奈緒さんが「盗品を入れられ現を求された」と訴えています。担当した施設運営部が本の虚偽申告として終。決裁者は黒瀬副部〉
あの免許証の女性だ。彼女は泣き寝入りしたのではなく、助けを求めていた。けれども、訴えを受け取る側が犯に関わっていたなら、声が届くはずもない。
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廊から複数の音がづいてきた。塚が計を見て、「いな」と笑う。鍵をけると、最初に父が入ってきた。濃紺のスーツ姿で、にはい封筒を持っている。
そのろにはモール総支配の浦、顧問弁護士の倉田、そして制警察官がいた。
「余計なを連れてくるなと言ったでしょう!」
塚が声を荒らげ、父の腕を押し返そうとした。総支配の浦が歩へる。
「この方に触れるな。瀬都発の代表取締役、瀬征社だ」
部の空気が止まった。
佐々の顔から血の気が引き、塚は私と父を交互に見た。
「では、この女は……」
「私の娘だ」
父は封筒を机に置いた。からてきたのは現ではなく、警察へ提するため印刷された映像の静止画だった。佐々が私のバッグへネックレスを入れる瞬が、連続写真ではっきり残っている。
「万円は持ってきていない。代わりに、あなた方が消せなかった証拠を持ってきた」
塚がずさりし、背を扉にぶつけた。だが佐々は、震えながらも私を指さした。
「罠です。このが社の娘だなんてらなかった。分を隠して、俺たちを試したんだ!」
「相が誰なら、やってよかったんですか」
私が尋ねると、彼はを閉じた。
警察官がを分け、机の類とネックレスを保全する。倉田弁護士は内を見回し、半透のファイルと机の引きしを示した。
「任で確認させていただきます。拒否するなら、捜索差押えの続きへ移ります」
塚はそのに座り込んだ。佐々はなおも「自分は指示されただけだ」と繰り返している。
誰の指示かと警察官が聞いた、彼は答えなかった。
代わりに、引きしの奥から冊の黒い帳が見つかった。付、女性のイニシャル、名、額。万、万、万。端には〈佐〉〈〉のほかに、見覚えのない〈K〉という記号が何度も記されている。
最の欄には、今の付と〈〉、そして私の装の特徴までかれていた。
そのには、鉛でこう記されていた。
〈K確認済み。映像処理、通常案件として終〉
父は文字を見たままかなかった。Kが誰を指すのか、私たちは同じ物をい浮かべていた。
すると父のスマートフォンが鳴った。画面には〈黒瀬隆〉と表示されていた。