"万引きを疑われた私に、警備員が「六万円で見逃す」と言ったので父に電話した" 第3話
消された角
犯の瞬は記録されていた。だが、過の映像は誰かに消されている。
私は端末を伏せたまま、子に座り直した。ここで勝ち誇るのは簡単だった。佐々がネックレスを入れる映像を見せれば、は青ざめ、謝罪し、私を解放するだろう。けれども、それでは削除権限を持つ物が証拠を処分するを与えてしまう。
「万円なんて急に用できません」
「貯くらいあるだろう」
「にいたので、本の座にはほとんど残していないんです」
事実だった。塚は舌打ちし、佐々は私のと鞄を値踏みするように眺めた。級ブランドを避けてきたつもりだったが、革靴だけはロンドンでく履いた質なものだった。
「族に頼めばいい。万で娘の将来が守れるなら、いものだ」
「もし払ったで、また請求されたら?」
「そんなことはしない。俺たちは慈善で逃がしてやるんだぞ」
塚の言葉に、佐々の元がわずかにゆるんだ。私は沈黙を怖がっているように見せるため、途切れ途切れに質問をねた。は誰に渡すのか。領収はなぜないのか。この類はどこで保管するのか。は最初こそ警戒したが、私が怯えて従い始めたとうと、次第にが軽くなった。
「は迷惑料だ。と警備で処理する」
「処理って?」
「細かいことはらなくていい」
広告
「でも、のたちも払ったんですよね。番なら、なくとも……」
「全員が払ったわけじゃない」
佐々がわず答え、塚が睨んだ。
「余計なことを言うな」
「別にいいだろ。こいつだって署名すれば同じだ」
の関係も見えてきた。現で商品を入れ、標を選ぶのは佐々。脅して現をさせるのは塚。だが、類と映像を管理する第者がいる。だけなら、わざわざ番号を振った統式を使う理由がない。
私は確認を指でなぞり、部に印刷されたさな文字を読んだ。〈事故報告先・施設運営部保統括〉。通常の万引き案件なら、警備会社の報告と舗側の被害届が別々に作られる。このはどちらの正式式でもない。施設運営部の誰かが作った私製の類だった。
「署名したら、このは施設運営部へくんですか」
「質問がい女だな」
塚が私の肩を押した。子の背が壁にぶつかり、鈍い音がした。痛みはあったが、私は声をげなかった。代わりに彼のがれるまで待ち、静かに言った。
「今、暴力を振るいましたね」
「げさなんだよ。逃げようとしたから止めただけだ」
録音には分残った。私はポケットので、久保田へ〈サーバー管理ログも複製。現点でアクセス遮断はしない〉と送った。相に気づかれず、誰が証拠へ触れるかを見届けるためだ。
広告
返信はすぐに来た。
〈解。分、過映像フォルダへの隔アクセス発。アカウントは施設運営部・黒瀬副部。いま削除を試みています〉
黒瀬隆。その名を見て、背筋にたいものがった。
黒瀬は父が信頼する古参幹部で、以このモールの運営に携わってきた物だ。来から私の直属の司となり、現を教える予定でもあった。帰国には何度もオンライン会議をし、「お嬢さん扱いはしませんよ」と笑っていた。
どうして彼が、私がこの部に閉じ込められた直に映像を消そうとしているのか。
その、佐々のスマートフォンが鳴った。表示された名を見た彼の顔から、笑みが消えた。廊へようとしたが、塚が「ここでいい」と顎をしゃくる。佐々は背を向け、声で話にた。
「はい……ええ、予定どおりです。女が。でまとめます」
数秒の沈黙の、彼は私を見た。
「分かりました。元だけ確認して、くへします」
話を切った佐々は、先ほどまでよりらかに焦っていた。
「今すぐ族へ話しろ。分以内にを用できなければ、警察へ突きす」
から命令が来たのだ。しかも黒瀬は、標が社の娘だとはまだらない。
私は父の番号を表示しながらった。父を呼ぶのは、助けてもらうためではない。
父が信じてきた男の正体を、逃げのない所で見せるためだ。