"今日でクビだ」黒蛇の夢を信じて280万円の起爆装置を壊した俺。3日後、127人が退避した直後――山が崩れた" 第1話
「今でクビだ」
「今でクビだ。迷信で現を止めるはいらない」
朝礼所に、俊哉監督の声が響いた。
壁際に並んでいた作業員たちは、誰も私と目をわせなかった。のにある黒鉱で働いて24。発破主任として現につ私が、を理由に作業を止めてくれと言えば、呆れられて当然だった。
それでも私は、引きがれなかった。
昨夜、黒い蛇がに現れた。
太さは私の腕ほどもあり、濡れた坑を塞ぐように横たわっていた。蛇は鎌首をもたげ、まっすぐ私を見て言った。
――巣を移す。3だけ待ってくれ。
目を覚ました、枕元の計は317分だった。
ただのなら、妻に笑い話をして終わっていたはずだ。しかし勤して第4区画へ続く坑のにつと、のと同じ湿った臭いがした。たいに、鉄をへ浸したような臭いがく混じっている。
「の話はもうしません」
私は監督を見た。
「第4区画を、今もう度確認させてください」
「昨確認しただろ。異常なしだ」
「昨と今で、の状態が同じとは限りません」
監督はで笑い、机のの発破作業確認表を指先で叩いた。
「午2に発破する。本社にもそう報告済みだ。今さら程をずらせるか」
今回の発破では、第4区画の奥にある岩盤へ38本の装薬孔を使う。装薬、結線、退避確認を終えた、発破器から気を送る予定になっていた。
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だからこそ、始めるに確かめる必があった。
「先週から、削岩を止めたの反響が変わっています。以よりく、く残るようになった。湧のる位置も、へ2メートルほど移りました」
「鉱なら、もるしも鳴る」
「ええ。1つだけなら珍しくありません」
私は黒い全帳をいた。付と刻、湧量、ガス測定値、岩盤の音。事故が起きなかったも、気づいたことだけは24き続けてきた。
「3つなった理由を確認したいんです」
朝礼所の隅で、藤本修班が腕を組み直した。18緒に働いてきた男だ。私のを信じているわけではない。それでも、私が根拠もなく作業を止めたことがないとっている。
監督は確認表を私のへ滑らせた。
「そこまで全だの何だのと言うなら、署名しろ。主任として問題ないと確認したんだろ」
私は表を見ろした。
発破予定刻、装薬量、退避範囲には数字が記入されている。だが、当のガス再測定欄は空だった。湧確認欄にも印がない。
「確認していないものには署名できません」
「なら、おの署名はらない」
監督は胸ポケットから赤いペンを抜いた。
私の名に、太い線が2本引かれた。
24かけて積みげたものが、数秒でのから消えた。
「今から発破主任は太田だ。酒井、おは当面、発破作業からす。
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処分はで本社に決めてもらう」
38歳の太田亮が呼ばれた。経験は分にあるが、から急かされると断れない男だった。妻と学の子供が2いて、3に組んだ宅ローンが残っている。
監督は、赤線の横へ太田の名をいた。
「午1までに装薬を終わらせろ。2に予定通り発破する」
太田は確認表を受け取ったが、すぐには返事をしなかった。
私は彼にづき、声を抑えた。
「私を信じなくていい。自分で第4区画を見てから決めてくれ」
「酒井さん……」
「署名は、そのでいい」
監督の線がんできた。
「もう主任じゃないが指図するな」
私はを閉じた。ここで言い争えば、太田まで私と同じ“迷信に振り回された”にされる。
しばらくして、太田は確認表を机へ戻した。
「監督。第4区画を見てきます。署名は戻ってからでいいですか」
監督の指が、机を度く叩いた。
「5分で済ませろ」
太田はさくをげ、ヘルメットの顎紐を締めた。藤本班も無言でライトを点け、そのに続いた。
2が黄い保線の向こうへ消える。
私はそのに残り、第4区画から流れてくるを受けた。
やはりたい。
しかも今度は、湿った臭いの奥に、かすかな属臭まで混じっていた。
黒い帳をき、私は刻をいた。
午836分。
その、坑の奥で、何かがさく転がる音がした。