"援助し続けた兄が隠していた二年間" 第5話
「だから俺に嘘ついていいの?」
「そうは言ってない!」
「言ってるのと同じだろ!」
美咲が私の腕を押さえた。
「直」
私はを閉じた。
兄も肩で息をしている。
しばらくして、美咲が静かに尋ねた。
「健司さん。借を全部返すために、今、直へいくら必なんですか」
兄はし考えた。
「百万あれば、とりあえずい利のところは片づく」
私は呆れて笑ってしまった。
「まだ俺から取る気なの?」
「取るじゃない。借りるんだ」
「今まで円も返してないだろ」
「これから返す!」
「何かけて?」
兄は答えられなかった。
私はそので言った。
「もう現はさない」
兄の顔が変わった。
「直」
「円も」
「俺にねって言うのか」
まただった。
事故。
。
幸。
兄はいつも、自分が番い所へ私を連れていく。
以の私はそこで止まった。
今回は止まらなかった。
「借の相談には付きう。計も緒に理する。必なら専も探す。でもはさない」
兄はちがった。
「お、変わったな」
「そうかもね」
「嫁に洗脳されたんだろ」
その言葉を聞いた瞬、美咲の顔から表が消えた。
私は兄より先にった。
「帰って」
「直」
「美咲を巻き込むな」
兄は何か言おうとした。
けれど私が玄関をけると、杖をつかんでていった。
その杖が必かどうかは、もうどうでもよかった。
問題はではない。
兄が、私の罪悪を杖代わりにしていたことだった。
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兄への送を止めて週。
がの活が急に楽になったわけではなかった。
むしろ最初にじたのは、空だった。
毎どこかで兄から連絡が来る。
りない額を確認する。
残業を増やす。
美咲に「今だけ」と言う。
それがなくなっただけなのに、自分が何か切な義務を放棄しているような落ち着かなさがあった。
ある夜、美咲が古い通帳を持ってきた。
「これ、覚えてる?」
、結婚した直に作った夫婦の貯蓄座だった。
最初のページに、
《宅・将来用》
と美咲の字でいてある。
は百万円まで貯まっていた。
兄への援助が始まり、そこから何度も引きした。
現残は百万円を切っている。
「ごめん」
私が言うと、美咲は首を振った。
「謝ってほしくて見せたんじゃない」
「でも」
「私も止めなかったから」
最初の、美咲も本当に兄を助けたいとっていた。事故で活が変わったを族が支えるのは自然だとっていたし、私が兄へ恩をじていることもっていた。
「でも途から、怖かった」
「何が?」
「健司さんじゃなくて、直が」
な答えだった。
「何言っても、“兄貴には恩があるから”って終わるでしょう。うちの貯がなくなっても、残業で体調崩しても、健司さんが困ってるって言われたら全部回しにする」
私は黙った。
「、私が引っ越しの話をやめたのも覚えてる?」
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「うん」
「あの、健司さんに万円送っただった」
兄はの修理代だと言っていた。
から考えれば、本当にを直したのかも分からない。
「私、健司さんを嫌いになったんじゃない」
美咲は続けた。
「ただ、自分たちの活にも順番があるって言ってほしかった」
その言葉が番痛かった。
兄を見捨てないために、私は妻へ「してくれ」と言い続けていた。
しかも、それを族いだとっていた。
翌、私は勤務先の残業申請を件取り消した。
久しぶりに定で帰った。
美咲とスーパーへき、夕飯の材料を選んだ。
特別なことはしていない。
それでも帰り、私は半もの、こんな普通のまで「兄を助けるために削っていいもの」と考えていたのだと気づいた。
援助を止める。
それは兄からを取りげることではない。
自分たちの活へ、順番を戻すことだった。
兄は、私に直接頼んでも駄目だと分かると、別の方法を使い始めた。
最初に話をかけてきたのは叔母だった。
「直、健司を見捨てたって本当?」
番そう言われた。
兄は親戚へ、
「事故でが悪いのに弟夫婦から突然援助を切られた」
と話していた。
借のことも。
パチンコのことも。
がかなり回復していることも。
当然、言っていない。
「叔母さん、半で百万円以渡してるよ」
「そんなに?」
「うん」
「でも健司は働けんのでしょう?」
「働いてる。万円以はある」