"廃屋を買った兄妹と、床下に眠る父の秘密" 第1話
「お姉ちゃん、僕たち、もうあのには帰れないの?」
歳の陽斗がそう聞いたのは、両親の葬儀を終えた翌々の朝だった。歳の佐倉空は、弟のを握ったまま答えられなかった。父の輔と母の恵子が暮らしていた会社借りげの宅は、父がくなったことで末までにけ渡すよう通されていたからだ。
それだけではなかった。父はさな運送事業を副業で始めるため、設備資として借をしていた。実際には叔父の健に頼まれて組んだ融資も混ざっており、父の、空のもとには聞いたこともない融会社からまで話がかかってきた。
「お父さんの借なんだから、娘さんが払うのが筋でしょう」
そう言われても、空には払えるなどなかった。卒業、元の品で働き始めてまだ。母の治療費と活費をへ入れていたため、空自の貯もほとんど残っていない。
叔父の健は、葬儀の席では涙を見せた。
しかし親戚が帰った途端、父の通帳と印鑑の所を聞いた。
「輔には俺が随分を貸してやったんだ。まずそこを理しないとな」
空は違を覚えた。
父から聞いていた話と逆だった。
に困るたび父へ泣きついてきたのは健の方だった。、古販売、健康品の代理。始めては失敗し、そのたびに父が始末をしていた。
広告
葬儀から、健は枚の類を持ってきた。
「この委任状に署名しろ。借もの片づけも、俺がまとめて処理してやる」
空は受け取ったへ目を落とした。
父の名があった。
《佐倉輔》
、財産理を健へ任せることに同したという類だった。
けれど、署名の最の画が違う。
父は「輔」の最を必ずくへ払った。
このはへねている。
「これ、お父さんの字じゃない」
健の表が瞬止まった。
「何を言ってる」
「私、何もお父さんの賀状の宛名き伝ってた。分かるよ」
隣にいた健の妻・雅子がで笑った。
「たかが歳の子が跡鑑定でもするつもり?」
「鑑定じゃありません。署名しません」
空がを返すと、健は急に声をくした。
「空。陽斗を育てるのに、これからいくらかかるとってる」
「それとこのは関係ないでしょう」
「俺たちが面倒見なかったら、おでどうするんだ」
空は黙った。
その沈黙を、健は承諾と受け取ったらしい。
「分かったなら余計なことはするな」
だが空は、そのの午に役所の無料法律相談へった。
そこで初めて、父の借をすべて自分が払わなければならないわけではないことをった。財産と負債を確認し、必なら相続放棄という段もある。
方、父の会社宅は相続財産ではない。
広告
どのみちなければならなかった。
相談員から帰り際に言われた。
「事な類や遺品は、勝に親族へ渡さないでください」
空がいしたのは、父が事故のに言った言葉だった。
物置の奥から古い箱をし、空へ渡していた。
「もし俺に何かあったら、これだけはおが持っていろ」
当は笑って聞き流した。
けれど父は、いつになく真剣な顔をしていた。
「誰にも渡すな。健にもだ」
その箱は今、空の元にある。
には古い腕計、族写真、使い込まれた財布、そして封をされた茶い封筒。
さらに底には、さな真鍮の鍵が本だけ入っていた。
何の鍵なのかは分からない。
その夜、空は初めて封筒をけようとした。
だが玄関の向こうで音が止まり、すぐにドアノブが回された。
鍵はかけてある。
次の瞬。
健の声がした。
「空。いるんだろ」
空は封筒を閉じた。
「ちょっと確認したい物がある。輔の遺品のに、茶い封筒がなかったか?」
父がんでから初めて、空ははっきり確信した。
あの箱には、誰かが急いで探している物が入っている。
健には「らない」と答えた。
翌朝、空は父の箱を職のロッカーへ移した。自宅へ置いておけば、留守に何をされるか分からない。さらに父の借について正式な相談をめ、資産より負債の方がきいことを確認したうえで、空と陽斗は相続放棄の続きを取ることにした。
それによって父名義の古い軽トラックやわずかな預も受け取れなくなる。