"娘の席を愛人に譲った夫の末路" 第4話
あまりにも平然と言い放たれた言葉に、ロビーの喧騒が瞬、のいたようにじられた。
「美優さんの席を確保するために、6歳の娘を普通席に追いしたの?」
「聞きが悪い言い方をするな!」敬吾は苛ちをわにし、声を尖らせた。「美優君は札幌に着いたらすぐに、先方の役員陣とのな顔わせがあるんだ。移に資料を読み込み、万全の体調で臨ませるのが管理職としての配慮だろ。仕事なんだよ、仕事!」
「陽菜はまだ6歳よ。見らぬに挟まれて、1半以もで座らせるつもりなの?」
「たかが1半の国内線じゃないか!」敬吾はを乗りし、さゆりを威圧するように吐き捨てた。「全な内なんだ、迷子になるわけでもない。陸してシートベルトサインが消えたら、おが様子を見にけばいいだけの話だろ。げさに騒ぎてるな。美優君の、恥ずかしい真似をするんじゃない」
敬吾は本気で、自らが「部をいやる能なリーダー」としての英断をしたと信じ込んでいる顔をしていた。
その横で、美優は困ったような顔を作って俯いていたが、その元のプレミアムクラスの搭乗券をそうとはしなかった。「私がろにきます」という言すら、その唇からこぼれることはない。彼女もまた、司から与えられた特権を当然のように享受する気でいたのだ。
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「ママ……わたし、パパとママのお隣じゃないの? うしろの席なの……?」
陽菜がそうにさゆりのスカートをさなで握りしめた。その指先は刻みに震え、きな瞳に涙が溜まり始めていた。
「丈夫だよ、陽菜ちゃん」
敬吾が屈み込み、わざとらしい笑顔を娘に向けた。
「陽菜はもう学になるお姉ちゃんだろ? で座れるよな。パパの事なお仕事のためなんだ。できるいい子だよな?」
娘の純粋なを「仕事」という名の暴力でねじ伏せ、自らの見栄との贄に捧げようとする男。
その景を目の当たりにした瞬、さゆりのので、10必に繋ぎ止めていた「族」という名の最の糸が、音をてて断ち切られた。
夫の世のため、娘に自由をさせないためと信じ、あらゆる理尽をみ込んできた。夫の無能さをで支え、浮気の兆候に気づきながらも、庭という枠組みを守るために自らを殺してきた。
だが、目のにいる男にとって、娘すらも自らの虚栄を飾るための付属品に過ぎなかったのだ。に良い顔をするためなら、幼いが子の尊厳すら平然と踏みにじる。
この男に、父親を名乗る資格などない。
そして、この男をこれ以、守ってやる理由も価値も、この世界のどこにもしない。
さゆりの内側で、かつて企業の巨悪を徹に断罪してきた法務コンサルタントの徹な性が、凄まじい速度で覚した。
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「さあ、がもったいない。プレミアムラウンジへくぞ」
敬吾が促すように歩きそうとした。
「いいえ」
静まり返ったロビーに、さゆりの凛とした声が響いた。
敬吾が怪訝そうにち止まり、振り返る。
「いいえって……何がだ?」
さゆりは元にあった2枚の搭乗券——自分と敬吾のプレミアムクラスの券を、夫の胸元へ無造作に押し戻した。元に残したのは、陽菜の35列目の搭乗券だけだった。
「私と陽菜は、あなたたちとはきません」
「は……? 何を言ってるんだ? に乗らない気か?」
「あなたと同じ空気を吸うのが耐えられないと言っているのよ」
さゆりの瞳には、りすら浮かんでいなかった。ただ、端に転がる汚れたを見るような、完全な拒絶のだけが宿っていた。
「自分の娘をのために追い払うような父親と、これ以1秒たりとも同じ空にいるつもりはありません」
「……!? お、何を根拠に滅茶苦茶を言って——」
敬吾が血相を変えて鳴ろうとしたが、さゆりはすでに彼に背を向けていた。
さゆりは陽菜と同じ目線にしゃがみ込み、娘のさな肩を優しく抱きしめた。
「陽菜、よく聞いて。ママはね、陽菜をきりになんて絶対にしないわ。陽菜の切なお席を、誰かに奪わせたりしない。だから、ママと緒に別のできましょう」
陽菜の瞳から涙が引っこみ、驚きと堵が広がっていく。