"凶悪犯と殺処分寸前の猫" 第7話
マレアは聴診器をオレオの胸に当て、体計の目盛りを確認すると、嘆の声を漏らした。
「素らしいわ、アンソニー。体が・キロまで増えている。毛艶も完璧だし、何より……」
マレアはオレオの顎のを撫でた。オレオは喉を鳴らし、マレアのをペロリと舐めた。
「に対する恐怖が、完全に消えている。初に威嚇していたあの子と、本当に同じ猫とはえないわ」
「……こいつが、頑張ったんだ」
アンソニーは照れくさそうに線を逸らした。
マレアはアンソニーの顔をじっと見つめた。
「あなたもよ、アンソニー。あなたの目の奥にあった刺々しい棘が、すっかり消えている。……あなた、所のことは考えているの?」
所という言葉に、アンソニーの肩が微かに張った。
「あとだ。……だが、俺のような科者に何ができる。寄りもねえ、科犯の武装盗だ。にたところで、元のストリートに戻るしかねえよ」
「そんなことはないわ」マレアは静かに、しかし断固とした調で言った。「あなたには、傷ついた物のを解きほぐす特別な才能がある。それは、学で獣医学を学んだにも真似できないものよ。もしあなたが本気でやり直す気があるなら……所、私のシェルターで働かない?」
アンソニーは息を呑んだ。
「シェルターで……俺が?」
「ええ。傷つけられた物たちは、同じように傷つけられたの痛みを敏に察するの。
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あなたなら、彼らの最の理解者になれる。そして……そのには、オレオを正式にあなたの族として引き取ることができるわ」
オレオを、正式な族として。
鉄格子のない空ので、オレオと緒に暮らす。朝起きて、オレオに飯をやり、仕事へき、夜には同じベッドで眠る。そんな普通の、らしい活。
アンソニーの胸に、これまで像したことすらなかった「未来」という名のが、鮮烈に差し込んだ瞬だった。
しかし、そのをみ込もうとするは、すぐそこまで迫っていた。
消灯、夜。
静まり返ったJブロックの廊を、ゴム底の靴が音もなく移していた。
巡回の守が、わざとらしく監カメラの角となる分盤のにち止まり、背を向けた。その隙に、がつ、アンソニーの独のへと滑り込んできた。
鉄格子の隙から、何かがへと滑り込ませられた。
さな、乾燥した肉片。
甘い匂いの奥に、微かに混ざる薬品の刺激臭。殺鼠剤(ワルファリン)を濃度で染み込ませた、特製の毒餌だった。
暗の、ベッドので眠っていたオレオのが、ピクリといた。
肉の匂いに引き寄せられるように、さながケージからて、に転がる肉片へと忍び寄っていく——。
肉片がを転がる微かな音と、先をくすぐる濃な油の匂いに、オレオは暗がりので首をもたげた。
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歩、歩。肉球がえ切ったリノリウムのを音もなくむ。かりの届かない独の隅、鉄格子のすぐ内側に落ちていたのは、親指のビーフジャーキーの欠片だった。だが、肉の芳の底に、わずかな苦みと属質の異臭が混ざりっているのを、猫の鋭敏な嗅覚は捉えきれなかった。オレオが舌を伸ばそうとした、まさにその刹だった。
「待て」
を切り裂くように、く鋭い声が落ちた。
ベッドから滑りりてきたアンソニーの巨躯が、のに割って入った。鍛え抜かれた腕がオレオの胴体を素く掻い潜り、抱きげる。猫は驚いてをよじったが、アンソニーの胸板に押し当てられると、主の切迫した音を敏にじ取ったのか、さく息を呑んできを止めた。
アンソニーは膝をにつき、落ちていた肉片に顔をづけた。
「……殺鼠剤だな」
腔を突く刺激臭。刑務所の倉庫や厨の隅に撒かれる、あの特の劇薬の匂いだった。濃度のワルファリンを含んだ薬品。こんなものをオレオのような型の成猫が呑み込めば、内臓血を引き起こし、夜がけるにのたうち回って息絶える。
アンソニーの背筋を、氷のような殺気が駆け抜けた。
首筋のタトゥーがりで波打つ。誰がやったのか。答えはだった。鉄格子の、暗い廊の突き当たりに消えていく、微かな音。