"凶悪犯と殺処分寸前の猫" 第4話
暗の、オレオの唸り声だけが折く響く。
午。
アンソニーは眠っていなかった。の刑務所活で、物音ひとつで目が覚める習慣がついていた。
カサリ、と乾いた音がした。
かりすら届かない暗がりの、ケージからさなが音もなく滑りしていた。オレオだった。をうようにして、アンソニーが置き直しておいたフードボウルへとづいていく。
シャリ、シャリ、シャリ。
猛烈な勢いでカリカリとした粒を噛み砕く音。飢えに耐えかねた獣の、必の咀嚼音だった。
アンソニーは呼吸を殺し、掛け布ので指先ひとつかさなかった。今ここで起きがれば、オレオは度と餌をにしなくなるだろう。男はただ、暗ので響くそのさな命の咀嚼音にを澄ませていた。
——きようとしている。
こんなクソ溜めのような檻ので、全を傷だらけにしながら、こいつは必にきようとしている。
胸の奥に、かつてじたことのない奇妙なが広がっていくのを、アンソニーは自覚していた。
目の朝、事件が起きた。
朝の清掃、アンソニーがケージの底に敷かれたペットシーツを交換しようとを伸ばした瞬だった。
「フッ——ギャアッ!」
目にも留まらぬ速さで、オレオのが空を裂いた。
鋭利な鉤爪が、アンソニーのの甲を々と切り裂いた。
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鮮血がプツプツと湧きし、タトゥーの刻まれた皮膚を赤く染めてに滴り落ちた。激痛がる。
条件反射で、アンソニーの拳が固く握りしめられた。、攻撃を受ければ相の蓋骨を砕くことで応えてきた男の肉体が、暴力の記憶を呼び覚まそうとした。
だが——。
ケージの奥で、オレオは自らの攻撃の結果に怯えるように、体を極限までさく縮こまらせ、を抱えるようにして目を閉じていた。まるで、次に振りろされるであろう激しい殴打を待ち受けているかのように。
アンソニーの振りげかけた拳が、宙で凍りついた。
幼い、割れたウイスキー瓶をに落とした、父親の革ベルトが振りろされるのを待っていた自分。あのの絶望な恐怖。
「……殴らねえよ」
アンソニーはく息を吐き、握りしめた拳をゆっくりといた。
血の流れるをそのままに、でしいシーツをケージの端に敷いた。
「殴るわけねえだろ、馬鹿野郎。……痛かったのは、おの方だもんな」
オレオが、恐る恐る片目をけた。
目のにあるのは、血を流しながらも、静かに自分を見つめている男の顔だった。声も、蹴りも、んでこない。
猫の瞳から、攻撃ながわずかに揺らぎ、い困惑のが広がっていた。
「おいおい、カーターのを見ろよ。ズタズタにやられてやがる」
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医務からの帰り、包帯を巻いたアンソニーのを見て、Jブロックの受刑者たちがヒソヒソと囁きった。副所のミラーが通の先から笑を浮かべて歩み寄ってきた。
「どうした、カーター。自の腕っぷしも、さな野良猫匹に敵わんようだな。規定に基づき、その猫を危険物としてシェルターへ送り返すこともできるんだぞ?」
「余計なお世話だ」
アンソニーはを止めず、ミラーの肩をかすめるようにして通り過ぎた。
「俺のが滑って鉄骨に引っ掛けただけだ。猫は関係ねえ」
「ほう……規則を盾に嘘をつくか。だが覚えておけ、度目の事故があれば即座に没収だ」
背に投げつけられた警告を無し、アンソニーは独へと戻った。
部に入ると、オレオはケージからて、アンソニーのベッドのに潜り込んでいた。アンソニーがづいても、以のような激しい威嚇はしなかった。ただ、く「グルル」と喉を鳴らすだけだった。
アンソニーはに胡をかいて座った。
には、刑務所の購買部で特別に購入したツナの缶詰があった。受刑者用の粗悪な缶詰ではなく、部の保護団体が持ち込みを許した猫専用の栄養だ。
パキリと缶をけると、濃な魚の脂のりが狭い独にち込めた。
スプーンですくい、皿に盛る。アンソニーはその皿を自分の元、膝からわずかセンチの所に置いた。
「ほらよ。おの好物だろ。