"無能社員を演じていた俺、上司を救って正体がバレる" 第1話
「あなた……体、何者なの?」
夜半。歓楽のネオンが途切れた、油との匂いが滞留する幅メートルほどの裏。 濡れたアスファルトのに背から倒れ込み、激痛に顔を歪めて首を押さえている柄な男。その横で肋骨を庇ってつんいになり、胃液を吐き戻している男。そしての奥、トタン壁に部を預けたまま目を剥き、完全に識をばしている男。 数秒まで鳥凛(しらとり・りんか)を取り囲み、卑劣な笑みを浮かべていたの凶漢は、今やただの肉塊と化していた。
藤健太(くどう・けんた)は、コンビニのビニール袋を首にぶらげたまま、で曲がった物のポリエステルネクタイをキュッと直した。
「いや、昔ちょっと格闘技をかじってまして……」 「……ちょっと?」
凛の切れの瞳が、獲物を射抜く猛禽のように鋭く細められた。 肩で切りそろえられた濡れ羽の黒髪、仕ての良い濃紺のパンツスーツ。灯の青いに照らされたその美貌は、恐怖ではなく、底れぬ混乱とりに染まっている。
「を……鉄パイプを持った男たちを、秒もかけずに素で沈める格闘技が、この世のどこにあるのよ」 「ええと……伝統派の、空とか……?」 「疑問形で誤魔化さないで!」
健太はけなく眉尻をげ、ポリポリと側部を掻いた。
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――やってしまった。 完全に、判断を誤った。
社内での藤健太といえば、コピー用の向きすら違え、エクセルの基本関数すら使えず、毎朝のように彼女から「あなた、職で何を学んできたの?」と徹に叱責されている、絵に描いたような無能社員のはずだった。 その男が、今、暗い裏で、プロのチンピラを切の無駄のない「殺傷技術」で無力化してしまったのだ。
「う……ぐ……」
アスファルトので、最初に首を極められたリーダー格の男が、脂汗を流しながらよろよろとを起こした。 健太のが、無識にミリ単位で方へとシフトする。いつでも喉仏を砕けるい。だが、男が線を向けたのは健太ではなく、呆然とち尽くす凛のほうだった。
「お、お嬢……頼むから、度……親父に会ってくだせえ……」 「……え?」
凛が息を呑む。 男は折れ曲がった首をで抱え込み、苦渋に満ちた表でのへと退りした。
「俺たちは……あんたの敵じゃねえ……! このままじゃ、あんた……あのクズ共に全部奪われるぞ……!」
男は壁際の仲を引に引き起こすと、を引きずりながら夜のへと消えていった。 静まり返ったに残されたのは、くの通りをるトラックの排気音と、健太のコンビニ袋がカサリと鳴る音だけだった。
「藤さん」 凛が、歩詰め寄ってくる。
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の微かな甘いりと、鉄錆のような男たちの血の匂いが混ざりう。 「今の男たちの言葉……そして、あなたのそのき。……、絶対に説してもらうからね」
たい宣告を残し、彼女はヒールを鳴らしてにっていった。 健太は夜空を見げ、く、いため息を吐きした。 平穏を装った常のメッキが、今、音をてて剥がれ落ちようとしていた。
翌朝、分。 京都央区、本のオフィスに本社を構える堅品商社『栄フーズ』。 社ラッシュでごった返すエレベーターホールで、健太は猫背になり、同僚たちの線を避けるように隅へとを寄せていた。
藤健太、歳。 途採用で営業第課に配属されて、ちょうどヶが経つ。 社内における彼の評価は、極めてシンプルかつ残酷な言に集約されていた。 ――『なぜ受かったのか分からない、無能なデクの棒』。
「藤君、おはよう」 「あ、田さん、おはようございます」
同期入社で領の良い営業マン・田が、馬鹿にしたような笑いを浮かべて隣に並んだ。 「昨頼んだ取引先のデータ入力、終わってるよな? 今から専務への報告会議なんだから、頼むよ」 「あ、すみません、まだ半分くらいしか……あの、グラフのし方がよく分からなくて」 「はあ!? お、マジで言ってんの? 学でもできるぞそんなの! あーあ、また鳥課にドヤされるぜ、お」
田は骨に舌打ちをし、いたエレベーターへ乗り込んでいった。