"母に追い出された私が、介護を手放すまで" 第15話
お兄ちゃんには円の権限も渡さない。そうなれば、定退職をにして懲戒解雇ね。退職は全額没収、会社の同僚にも親族にも、お兄ちゃんが母親の財産を騙し取ろうとした事実がれ渡るわよ」
「ぐっ……く、くそっ……!!」 秀の膝がガクガクと震え、から仏壇の引きしがへと転がり落ちた。
方塞がり。 もない。妻もいない。を売ることもできない。 残されたのは、介護の母と、莫な借と、逃げのない現実だけ。 秀はそのにへたり込み、畳を両で激しく叩いて嗚咽を漏らした。
そこへ、をうようにして、枝が私の元へと擦り寄ってきた。 たく乾いた老いたが、私のジーンズの裾を必に掴む。
「ゆみこ……! 由美子、お願い……! 私が違っていたわ……!」 母の涙が、私の靴の甲にポタポタと染みを作っていく。
「あなたが毎、どれだけ変ないをして私を支えてくれていたか……今になって、骨の髄まで分かったのよ……! 自分のパート代まで削って私のオムツを買ってくれていたなんて、本当にらなかったのよ……! 秀は駄目よ、あのは私をしてなんかいなかった! 由美子、お願いだから戻ってきて! 私には、あなたしかいないのよ……!!」
母の慟哭。 それは、私がこの、どれほど喉からがるほど欲しかった言葉だっただろう。 私を認め、私の献に謝し、の娘としての価値を認めてくれる言葉。
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けれど――。 その言葉を聞いた私のには、さざ波つたなかった。 私のを満たしていたのは、温かなではなく、ただ澄み切った、絶対零度の静寂だった。
私は、すがりつく母のを、本ずつ、指をすようにして静かに引き剥がした。
「……遅いよ、お母さん」
枝が、弾かれたように顔をげた。
「お母さんが『男夫婦と暮らすからていけ』と言ったあの、私のの『娘』はんだのよ。……、私は自分のをすべて捨てて、あなたに尽くしてきた。それを『がなくてたい義務だ』と切り捨てたのは、お母さん自よ」
「ゆ、由美子……見捨てる気かい……!? 親を見捨てる気なの!?」
「見捨てたんじゃないわ。お母さんが選んだを、お母さん自の責任で歩んでもらっているだけよ」
私はバッグを肩に掛け直し、踵を返した。
「好きな男と暮らす老が、お母さんのだったんでしょう? ……だったら、最までで、そのの続きをきなさいよ」
茶のの引き戸をピシャリと閉めた。 背から、「由美子ォッ!!」「かないでくれ、由美子!!」というの絶叫が響き渡ったが、私は度も振り返らなかった。
玄関をて、の空気を胸いっぱいに吸い込む。 初のぬるいが、私の頬を優しく撫でていった。 ぶりに、自分ので、自分のの平を踏みしめた瞬だった。
実の決戦から、かのが矢のように流れた。
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私のアパートの活は、驚くほど平穏で、豊かだった。 調剤薬局での仕事は充実し、定でがったは、駅のスポーツジムで汗を流し、週末にはで映画を見にったり、読に耽ったりした。 眠は毎。肌のツヤは戻り、何も悩まされていた頑固な肩こりと偏痛は、嘘のように綺麗さっぱり消えっていた。
秀の携帯番号は着信拒否にし、実の固定話からの履歴も、週に度確認するだけで切折り返さなかった。 彼らの獄に、私がを差し伸べる理由はミリもしなかったからだ。
の初旬、スーパーで買い物をしていると、向かいのレジから「由美子さん?」と声をかけられた。 振り返ると、そこにいたのは、別のようにるい表をしたマリさんだった。
「マリさん……! お久しぶりです」
スーパーのイートインコーナーで、私たちはたい麦茶を挟んで向かいった。 マリさんの顔からは、あの実で見せていた壮や疲労のは消えり、ぎれいにセットされたショートカットがよく似っていた。
「先週ね、正式に婚が成したのよ」 マリさんはれやかな笑顔で、アイスティーのストローを回した。
「秀さんの退職の借り分から、私の財産分与と慰謝料、きっちり括で回収したわ。弁護士の先がすごく優秀でね、川美穂との倫の証拠があったから、相の言い値なんか銭も通らなかった。