"母に追い出された私が、介護を手放すまで" 第6話
(まさか……あのか!? だが、なんで由美子のやつは、俺に何も言わずにこの通帳を渡してきたんだ!?)
正午過ぎ。 調剤薬局の休憩で私が玄米弁当を広げた瞬、スマートフォンがけたたましく震えた。 画面にる【兄】の文字。
私はめた目で画面をタップし、に当てた。
「もしもし」
『おい由美子!! お、どういうことだ説しろ!!』
受話器が壊れんばかりの、秀の号。
『母さんの通帳を見たぞ! 残が万しかねえじゃねえか! お、今まで母さんのを着して使い込んでたんじゃないだろうな!? 警察に突きすぞコラァ!!』
私は箸を置き、静かに息を吸い込んだ。
「着? ね。引き継ぎのファイルに、過の介護費用の領収と計簿、全部綴じておいたでしょうが。見てないの?」
『う、嘘つけ! があんなに綺麗さっぱり無くなるわけねえだろ!』
「無くなるのよ、お兄ちゃん。オムツ代、とろみ剤、子のレンタル料、タクシー代。だけでりるわけないじゃない。私が毎、自分のパート代から万円ずつ補填して、なんとか活を回していたのよ」
話の向こうで、秀が息を呑む音が聞こえた。
「それに……」 私は声のトーンを段、く落とした。
「かに引きされた【百万円】のこと、お兄ちゃんが番よくってるんじゃないの?」
『な……っ!? な、何のことだ! 俺がるわけないだろ!!』
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秀のうろたえた声が、スマートフォンのスピーカーから漏れす。 語るに落ちるとは、まさにこのことだった。らぬぜぬを突き通すには、あまりにも声の揺が激しすぎた。
「とぼけないでよ。か、お母さんが『秀のの壁と根のリフォーム代を用ててあげなきゃいけない』って言って、定期預を解約して引きしたおよ。お母さんは『男の頼みだから』って、疑いもせずに渡したわ」
『そ、そうだ! のリフォームだ! 親が男のを直す助けをして何が悪いんだよ!』
き直る兄の浅ましさに、私は笑を禁じ得なかった。
「ふうん。リフォームねえ。……じゃあ、なんで振込先の座名義が務じゃなくて、【川美穂】っていう個の女性名義だったのかしらね?」
ピタリと、通話の向こうの呼吸音が止まった。 まるで臓が止したかのような、完全な沈黙。
川美穂。 か、母の代理で窓へき、百万円の振込伝票をかされた、母から渡されたメモに震える字でかれていた名だった。 その、母は「秀が指定したリフォーム会社の経理担当者よ」と言い張った。だが、個座に会社のを振り込ませるなど、常識ではあり得ない。審にった私は、そのメモの控えを密かに帳にき写していたのだ。
「お兄ちゃん。
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、急に営業部から総務の窓際デスクに異になったわよね。あれ、本当は社内倫が原因だったんじゃないの?」
『ゆ、由美子……お、どこまで……』
「まだ何も調べてないわよ。ただ、自分の胸にを当てて考えてみなさいよ。母さんの老資は、もう万円しかないの。来のデイサービス代と訪問診療代を払ったら、もう底をつくわ。……好きな男夫婦が同居してくれたんだもの、これからはお兄ちゃん夫婦の財布から、毎万くのしをして母さんを養っていくんでしょうね」
『ふ、ふざけるな! 俺たちにそんな余裕があるわけ――』
「じゃあね、お兄ちゃん。せいぜい親孝に励みなさいよ」
ツーツー、と通話を方に切断した。 私はスマートフォンを机に置き、め切ったお茶を気にみ干した。
胸の奥が、たい歓で粟っていた。 秀のあの怯えよう。 川美穂という女は、単なるなどではない。秀が絶対に妻のマリにも、世にもられてはならない、致命なアキレス腱なのだ。
午、私は代の同級であり、内の法律事務所でパラリーガルとして働く親友の直子(なおこ)に連絡を取った。
『もしもし、由美子? どうしたの、昼休みに珍しい』
「直子、急な相談でごめんなさい。……内の財産トラブルについて、し教えてほしいの」
私はこれまでの経緯をに話した。介護を押し付けられていたこと、母と兄に追いされたこと、そして母の座から百万円が消え、その振込先が兄の元同僚らしき女性であること。