"消えた子猫と、花壇の頑固おじさん" 第3話
「許だか何だからんがね、迷惑を被ってるがいるんだ! さっき管理事務所へ話して、自治会にも連絡を入れた。……この公園から猫を匹残らず撤しろってな!」
撤。 その言葉のを、僕は肌を刺すような寒気とともに理解した。 みどりさんは青ざめた顔でち尽くし、植え込みの奥にいる僕たちを、痛ましそうに見つめ返した。
さんがりを撒き散らしながら管理事務所へ向かってちった、みどりさんはそのに崩れ落ちるように膝をついた。
「……私の配慮が、りなかったのね」
みどりさんは震えるで軍をはめると、壇のに散らばったチューリップの球根をつひとつ拾い集め始めた。傷の浅いものを丁寧に選び、掘り返された穴に埋め戻し、掌で優しくを押し固めていく。 僕と郎は、植え込みの隙からそっと先をし、みどりさんの背を見つめていた。クマはを伏せ、罪悪からかさく「クゥ」と喉を鳴らした。
僕たちがを困らせている。 僕たちがここにいること自体が、誰かのりを買っている。 その苦しい空気が、幼いクマの胸にも確実に染み込んでいた。
そのの午、公園の掲示板に、枚の真しいラミネート加された張りが打ち付けられた。
【警告:公園利用者各位】 『隣民より、壇の損壊ならびに糞尿被害の苦が発しております。
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野良猫への無責任な餌は固く禁じます。改善が見られない、関係各所と協議の、保護・撤措置(捕獲)を実施します。――公園管理事務所・緑景観課』
いに並んだ赤い太文字を、何もの散歩のたちがを止めて眺めていた。 「やっぱりねえ、最猫が増えたとってたのよ」 「壇が荒らされるのは困るわよねえ」 々に交わされるややかな線が、茂みのにいる僕たちへと突き刺さる。
夕方、傾きかけたが壇のレンガを赤く染める頃、さんがで戻ってきた。 肩にジョウロを担ぎ、みどりさんが植え直したの表面をじっと見つめている。 は平らに均され、荒らされた形跡は綺麗に消えっていた。
さんはフンとを鳴らし、ジョウロの先から静かにを撒き始めた。 シャワシャワとがに染み込むよい音。 そのだった。
壇の隅のレンガの割れ目に、転がり落ちたまま見落とされていた個の球根があった。 それに気づいたのは、茂みからこっそりいしてきたクマだった。
クマは、さんがすぐそばにいることにも気づかず、転がった球根にを伸ばした。 のついた球根を「ちょん」と叩き、匂いを嗅ごうとをづけ、そして――さな歯をてようとをけた。
「だめだっ!!」
のような声が響いた。
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クマは全の毛を逆て、びがって腰を抜かした。 さんがジョウロを放りし、鬼のような形相で駆け寄ってきたのだ。
逃げそうとしたクマの元へ、さんの太いが伸びた。 叩かれる――! 僕は茂みからびし、郎も唸り声をげて構えた。
だが、さんのはクマを殴りつけはしなかった。 さんはクマの先から球根を素くひったくるように奪い取ると、のに膝をつき、激しい息を吐きながらクマの顔を覗き込んだのだ。
「……バカ野郎。これは、絶対にに入れちゃいけねえんだ」
その声は、朝の声とはらかに違っていた。 荒々しい響きのに、奇妙な焦燥と、切羽詰まった震えが混じっていた。
さんは球根についたをで乱暴に払うと、腰をろし、クマの目線までをげた。
「チューリップの球根にはな……ツリパリンっていう毒があるんだよ。猫がひとかじりでもすりゃあ、臓が止まるか、腎臓がやられてのたうち回ることになるんだ」
クマは直したまま、さんの顔を瞬きもせずに見げていた。 僕も郎も、茂みのでを止め、その異様な景を見つめていた。
さんは、作業着の胸ポケットにを入れた。 取りしたのは、属の具がついた、擦り切れた革の切れ端だった。 赤茶のさな輪。
ののひらにすっぽり収まるほどの、古い猫の首輪だった。