"棺の中で眠る娘と、吠え続けた秋田犬" 第10話
健には保護責任者遺棄致傷罪により懲役ヶの実刑判決がされ、エミリーには国退処分を提とした執猶予付きの罪判決が言い渡された。の親権は庭裁判所の緊急審判によって正式に静子へと変更され、度と館のがに接触できないよう、接禁止命令が発令された。
静子は、護師としての復職が決まった田の病院のくに、さな庭付きの平を借りていた。
庭の梅のがさないをほころばせる、学期の黄い通学をかぶったが、真しいランドセルを背負って玄関のにっていた。
「お母さん、ってきます!」
「はい、に気をつけてね。宿題のノートは持った?」
「持ったよ!」
の取りは、かつての凍傷の痕跡をしもじさせないほど軽やかだった。
玄関の引き戸をけると、庭の犬からハチがのっそりと姿を現し、力く尻尾を振っての元へ寄り添った。毎朝、集落の集団登の集所までを送り届けるのが、ハチのしい課になっていた。
「ハチ、こう!」
が駆けすと、ハチはその歩調にぴったりとわせ、誇らしげにをてて並んで歩き始めた。
のろ姿を、静子はエプロンのポケットにを入れ、穏やかな微笑みを浮かべて見送っていた。
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あのたい葬儀会の静寂。
魚の音を引き裂いた、命懸けの唸り声。
の蓋を押しけた瞬の、の温かい呼気。
あの々は、静子の魂にい傷痕を残した。しかしそれは、もはや痛みを伴う古傷ではなく、どんな過酷な運命からも娘を守り抜いたという、母としての誇りの証だった。
「お母さん、バイバイ!」
坂の向こうで、が振り返ってきくを振った。
隣でハチが、の青空に向かって、く、澄んだ声で「ワン!」と度だけ誇らしげに鳴いた。
静子は胸元にを当て、く、温かい息を吸い込んだ。
解けの匂いを孕んだ柔らかなが、母と子のしいを優しく包み込み、に満ちたへと向かって吹き抜けていった。
朝の登を見送った静子は、台所でく朝の片付けを済ませると、玄関脇のに置かれた古い靴にを入れた。
病院の夜勤入りを控えた午の数は、静子にとって庭と畑の入れに充てる貴なだった。かつて館の広な敷にいた頃は、義父母や親族の目を気にしながら息を潜めてこなしていた事のすべてが、今はこのさな平で、自分と娘のためだけの尊厳ある営みへと姿を変えていた。
庭の片隅、解けで潤んだ黒のに、さな作りの壇が作られていた。
が退院した直、まだ元がおぼつかなかった頃に、で植えたクロッカスと仙の球根が、緑の鋭い芽を力く伸ばしている。
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その脇に、が学の図のに作ったという、平たい川原にペンキで描かれたハチの似顔絵がちょこんと置かれていた。
「ただいまー!」
午のパトロールを終えたハチが、い垣の隙からひょっこりと顔をした。を集所の通学まで送り届け、所の見守り隊の老たちにひとしきりを撫でてもらってから戻ってくるのが、この忠犬の崩さない課だった。
ハチはで汚れたを誇らしげに掲げ、静子の元にすり寄ってきた。
「ハチ、お疲れ様。今もちゃんと見届けてくれたのね」
静子がしゃがみ込んで太い首周りの毛を掻きむしってやると、ハチは目を細め、喉の奥からゴロゴロと満げな唸りを漏らした。あの葬儀会で親族たちを戦慄させた獰猛な威嚇の響きはどこにもない。そこにあるのは、自らの義をすべて「族を守ること」に捧げた、賢な番犬の絶対ならぎだった。
静子はぬぐいでハチの肢の入れをしながら、ふとくの並みを見げた。
かつてが遭難し、自分が絶望の底での棺にをかけたあの館の集落は、尾根をつ越えた遥か彼方にある。
の噂では、健が役を始めた、残された館の本は急速に零落したという。の林業利権をに握っていた板は取りげられ、あれほど尊だった親族たちも互いに責任を擦り付けって散り散りになった。