"棺の中で眠る娘と、吠え続けた秋田犬" 第4話
と判定した。昨夜から遺体はドライアイス塊とともに納棺され、すでに通夜も終えていた。
医学な常識に従えば、きているはずがなかった。
しかし、静子の線は、の顔ではなく、胸元で組まれたそのさな「の指先」へと釘付けになった。
絹の甲からわずかに覗く、さな差し指。
静止したので、静子は呼吸を止めて見つめ続けた。秒、秒、秒。
ピクッ。
まるで微な流が流れたかのように、指先がわずかミリ、に向かってねた。
「……っ!」
静子の喉の奥で、息が詰まる音がした。
見違いではない。覚でもない。直の解による弛緩とも違う。それは枢神経からの信号を受け取った末梢筋肉の、紛れもない随な痙攣だった。
「けなさい」
静子のから漏れた声は、決してきくはなかった。だが、静まり返った広の隅々にまで、え切った鋼のように鋭く響き渡った。
「な……何を言っているの、静子」
健が狼狽して歩退いた。
「けるんだ。今すぐに、この棺の蓋をしなさい!」
静子は叫ばなかった。しかし、その声には切の反論を許さない、絶対な命令の響きが込められてれていた。親族たちがざわめき、伯父が血相を変えてちがる。
「静子さん! 気でも狂ったか! 度釘を打った棺の蓋を葬儀の最にけるなど、先祖への冒涜だ! ちゃんをらかに逝かせてやれ!」
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「んでいません!」
静子は振り返り、親族たちをした。そのの凄まじさに、柄な伯父が気圧されて言葉を失った。
「は、まだきています。ハチはずっとそれを教えていたのよ!」
「冗談じゃないわ!」
エミリーが切り声をげて割り込んできた。彼女は静子を指差しながら、侮蔑とりに顔を歪めて叫んだ。
「を受け入れられない狂のヒステリーよ! 健さん、何を突っっているの! この女をく警察に引き渡して! これ以、の遺体を辱める気!?」
エミリーは自ら静子の腕を掴み、棺から引き剥がそうとに踏みした。
その瞬だった。
「ガルルルルッ、バウッ!!」
ハチがの速さで割って入り、エミリーの喉元数センチの空で凄まじい威嚇の顎を打ち鳴らした。バチン、ととがぶつかりう破裂音が響き、エミリーは鳴をげて尻もちをついた。ハチはエミリーを見ろし、全の毛を逆て、歩でもづけば喉笛を噛み千切る姿勢を崩さなかった。
「かないで」
静子はエミリーを瞥もせず、祭壇の脇にっていた葬儀社の若社員に向き直った。
「釘抜きを持ってきなさい。く!」
「し、しかし……喪主様の許が……」
若社員が怯えて健を見る。健は顔面を蒼にし、膝を震わせてち尽くしていた。
「健、あなた父親でしょう!」
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静子の鋭い声が、元夫の胸元を撃ち抜いた。
「、あなたが私からを奪った、何て言ったの!? 『自分の方が経済力がある、を誰よりも幸せにできる』と言ったわね! その結果がこれなの!? あの子がで遭難した、あなたたちは何をしていたの!? 今、あの子がで必に指をかしているのよ! 確かめもしないで、きたまま焼きへ送る気なの!?」
「な……指が……?」
健の線が、窓へと吸い寄せられた。
その、窓のガラスの内側に、く濁った蒸気の染みが、極めてく、しかし確実に広がった。
温かい呼気。
え切った棺の内部で、かすかな息が吐きされ、氷のようなガラスを曇らせたのだ。
「あ……ああああっ!」
最列にいた親族の女性が指を差し、叫び声をげた。
「息をしてる! 窓が曇ったでば!!」
広が爆発したような騒乱に包まれた。弔問客たちが斉にちがり、恐怖と驚愕の入り混じった叫び声をげる。エミリーはにへたり込んだまま、元を押さえて「嘘よ……そんなはずはないわ……」と狂ったように呟き続けていた。
「釘を抜け!! くしろ!!」
健が号をげながら、自ら祭壇の脇にあった具箱へびついた。葬儀社の社員が震えるでバールを差しし、健とがかりで棺の隅に打ち込まれていた飾り釘に刃を噛ませた。
キィィ……ギギッ!
が裂ける鳴のような音が響き、本、また本と釘が引き抜かれていく。
最の釘がれた瞬、静子は誰の助けも借りず、で分い杉の蓋を押しげた。