"炎天下に追い出された新人と、5年ぶりに戻った男" 第9話
「しゃ……社……!? の午に戻られる予定では……!」 の声が裏返った。
正はを瞥もくれず、股で座へと歩みをめた。 その背から、点滴の針の痕に絆創膏を貼ったと、付き添いの堀田課が静かに入してきた。
正は座の子を引くと、ドカリと腰をろした。 元の分い報告をバン!と机に叩きつける。
「空港に着いた瞬、滝川から連絡を受けた。……わしの留守に、が社の入社員が炎で倒れ、救急搬送されたそうだな。……誰の差しだ?」
くをうような社の声に、会議の温度が瞬で氷点までがった。 黒岩はに膝をつき、額を絨毯に擦り付けた。 「しゃ、社! 誤解でございます! 総務の業務の環として――」
「黙れ、蛆虫が」 正は黒岩を刀両断にした。
「滝川。おの調査結果を述べろ」 「はい」 滝川がちがり、淀みなく億千万円の横領と、全配慮義務違反の全貌を報告した。 聞き終えた正の拳が、メキメキと音をてて握り締められた。 正はにいつくばる黒岩を見ろし、静かに言った。
「黒岩。おがヶ、度も名を呼ばず、炎に放りして殺しかけた入社員の名を、フルネームで言ってみろ」
「え……? あ、あの……し、潮見……えっと、潮見……」 黒岩のから、名がてこない。 ヶ、ただ「さん」「卒のお嬢ちゃん」
広告
としか呼ばず、のとして見ていなかった男には、彼女の名すら記憶に残っていなかったのだ。
「言えないか。……ならば、本に名乗ってもらおう」 正が壁際を向いた。 「へろ」
が歩、にみた。 ブラウスの汚れは落とされていたが、首筋には痛々しい焼けの跡が残っていた。 は真っ直ぐに背筋を伸ばし、澄んだ声で名乗った。
「総務部・潮見です」
正の眉が、ピクリといた。 「……。おがこの男から受けた仕打ちを、役員全員ので証言しろ」
は、瞬だけ唇を噛み、そして淡々と事実を語り始めた。 毎朝のむしりの。 契約解除されたグリーン企画への審な支払いを発見したこと。 その翌に倉庫へ追放されたこと。 そして今朝、「全部終わるまで戻ってくるな」と命じられ、炎で識を失ったこと。
涙は滴も流さなかった。 事実だけを、正確無比に並べてるその姿は、かつて正と共に会社をちげたき妻・美代子の姿と完全になっていた。
正はちがった。 そして、にいつくばる黒岩の目のまで歩み寄ると、徹な声で言い放った。
「黒岩。おが『社精神を見せろ』と炎で虐待したこの社員はな……」
正はの肩を、きなで力く引き寄せた。
「わしの、たったの実の娘だ」
広告
――ドォン、と会議に見えない鳴が轟いた。
黒岩の顎がれそうになるほど落ち、目は見かれ、呼吸が完全に止まった。 常務の指から、用の万がカランカランと音をてて絨毯を転がっていった。
「しゃ……社の……むす……め……?」
自らがゴミのように踏みつけ、嘲笑い、殺しかけた入社員。 その正体が、会社の絶対頂点に君臨する男の「最の令嬢」であったという、悪すらぬるい絶望の真実が、傲な男たちのへ容赦なく叩き落とされたのだった。
「社の……娘……?」
黒岩の唇から、掠れた空気の漏れるような音がこぼれ落ちた。 目のの絨毯に落ちた自らの汗の染みが、じわじわと広がっていく。膝の震えが止まらず、ちがろうとしたは骨が抜けたように崩れ、両でを擦る無様な格好のまま直していた。
役員会議の空気は、完全な真空状態と化していた。 誰として咳払いすらできない。さっきまで黒岩の「研修」という鱈目な弁に頷きかけていた取り巻きの取締役たちも、幽霊でも見たかのように血の気を引き、自らの帳へ線を落としてのように固まっている。
「ひ、常務……! 常務、助けてください! 私を総務部に推薦してくださったのは常務じゃないですか! あの委託費の処理だって、常務の指示で――」
狂乱した黒岩が、うようにしての元へすがりついた。
級なウールのズボンの裾を掴もうとするその脂ぎったを、は嫌悪をわにして乱暴に蹴り払った。