"私を捨てた元婚約者が、十数年後に知った本当の私" 第4話
だが、理恵の表がふと曇った。周囲を気にむように線を落とし、言いにくそうに唇を噛みしめる。
「……真子。実はね、あんまり言いたくなかったんだけど……」
「何? 理恵、慮しないで」
「先週の曜の夜……駅のバーで、吉を見かけたのよ。別の女の子ときりで」
真子の臓が、トクンとさくねた。
「相は誰だったの?」
「……磯神美よ。覚えてるでしょ、同じ学の」
その名を聞いた瞬、真子の脳裏に代の記憶が鮮に蘇った。
磯神美。ったらしい顔ちと過剰な猫なで声を武器に、男子徒には徹底に甘え、女子徒のでは骨に態度を変えることで名な同級だった。何より彼女には悪名い性癖があった。の彼氏や婚約者など、「誰かにとって番切な男」をわざと誘惑して略奪することに、異常な執着を燃やす女だった。
「がカウンターの奥で、べったり体を寄せってんでるのを見ちゃって……。見違いであってほしいとって今まで言えなかったんだけど、やっぱり真子には伝えておかなきゃとって」
「……ありがとう、理恵。教えてくれて」
真子の声は、驚くほど静だった。
点と点が、恐ろしい速度で本の線へと繋がっていく。
ここ最、吉がスマートフォンを肌さず持ち歩き、画面を伏せて置くようになったこと。
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急に「仕事の付きい」と称して夜の帰宅が増えたこと。そして、結婚式の準備に対して切の関を失っていたこと。
すべては、裏で美と通じていたからだったのだ。
そのの夕方、真子は珍しく来業務が定で片付き、予定よりく帰宅の途についた。
駅のスーパーで夕飯の買いしをする気にもなれず、ただ械に自宅マンションのエレベーターをがり、玄関の鍵をけた。
ガチャリと属音が響き、ドアを内側へ押しけた瞬、真子の線はの片隅に釘付けになった。
見慣れた吉の革靴の隣に、真のハイヒールが脱ぎ捨てられていた。
華奢なストラップと、センチいピンヒール。真子のものではないことは目瞭然だった。
を澄ますと、廊の突き当たりにあるリビングから、甘ったるい嬌声と、それに答える吉のにかかった笑い声が漏れ聞こえてくる。
「ねえダーリン、いつになったらあの堅物会と別れてくれるのぉ? 美、もう待ちきれなーい」
「まあ焦るなって。あいつ、医者だから世体気にして慰謝料とか面倒なこと言いしかねないだろ。うまくあいつの方から『別れたい』って言わせるように仕向けてる最なんだからさ」
「えー、ずるい! ダーリンは美だけのものなのにぃ」
真子は無表のまま、歩歩、音を忍ばせてリビングのドアへとづいた。
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りも、しみも、涙すら湧かなかった。胸の奥を支配していたのは、ただただ底れぬ吐き気と、こんな浅ましい男にの貴なを費やしてしまった己への徹な失望だった。
真子はドアノブを掴み、躊躇することなく気に扉をけ放った。
バタン、と乾いた衝撃音がリビングに轟いた。
ソファので抱きっていたつのが、ねがるようにして直した。
吉はスウェット姿で、胸元のはだけたシャツを着た美の腰に腕を回した体勢のまま、抜けにを半きにして真子を見つめた。美は瞬だけ驚きに目を見張ったが、すぐにわざとらしい笑いを元に浮かべ、隠すどころか吉の腕にさらに胸を押し付けた。
「ま、真子……! な、なんでこんなに……今は当直じゃなかったのか!?」
慌ててび起きようとする吉を、真子は凍りつくような淡な差しで見ろした。
「当直はよ。……私ので、私のベッドのすぐ隣のリビングで、随分と楽しそうね」
「ち、違うんだ真子! これは事故っていうか、たまたま美と再会して、昔話をしてたら向こうが急に寄りかかってきてだな——」
必に見苦しい言い訳を並べてる吉の言葉を、美が甘ったるい笑い声で遮った。
「もういいじゃない、ダーリン。見つかっちゃったんだし、正直に言っちゃえば?」
美はい茶髪を指先で弄びながら、真子を嘲笑うように目遣いで見据えた。