"離婚した5日後、私が92億円の都心ビルを相続したと知った夫" 第5話
8200万円の請求
「判断をする方って、どういうだ」
浩司は私と伊藤先を交互に見たが、すぐに表を戻した。私が父の相続続きを伝い、代理の隣に座らせてもらっただけだと考えたらしい。
「まあいい。先に買い取りの話をめましょう。さん、契約を」
が革鞄から分い類を取りした。表には《座5丁目商業ビル取得計画》と印字され、買主の欄にはの産会社、運営協力会社には佐藤デジタルの名がある。
「所者には、の管理会社を通じて提案済みです。佐藤デジタルが入居を続けることを条件に、未払い賃料も取得に理します」
「提案が届いた記録はありますが、承諾した記録はありません」
伊藤先が答えると、は営業用の笑みを崩さず、《基本済み》とかれたページをいた。しかし署名欄は空で、所者の氏名すら記されていない。
浩司は苛ったように指で机を叩いた。
「形式は今えればいい。こちらには40の社員がいる。相続したばかりの素が賃料を急に請求して会社を潰したとなれば、ビルの評判にも傷がつく」
浩司は社員の名を3挙げ、幼い子どもがいる、宅ローンが残っていると訴えた。どれも私が創業からっているたちだった。けれど、彼らの活を本当に案じていたなら、650万円の賃料を止めた点で事を説し、額でも返済を始めることができたはずだ。
広告
社員の顔をい浮かべるほど、浩司が彼らを私の罪悪を刺激する材料にしていることが許せなかった。
私は父が残した連絡記録をいた。最初の未払いから今まで、話7回、メール11通、内容証2通。急な請求ではない。父は病状が悪化してからも、浩司へて直すを与え続けていた。
「では、資繰り表を度しか提しなかった理由を説してください」
私が尋ねると、浩司は骨に顔をしかめた。
「由美、おに会社の何が分かる。で領収を並べていただけの女が、経営者にをすな」
美穂も腕を組み、私を見ろした。
「介護で会社を放りした方に、社員の活を語ってほしくありません。社を支えてきたのは私です」
胸の奥に鈍い痛みがった。それでも私は線を落とさず、父が3度送った支払い計画の求をテーブルへ置いた。
「父の病へ度も来なかったが、父から与えられた12かを当然のように使った。その事実を確認しているだけです」
浩司の元が引きつった。伊藤先は話を戻し、管理責任者へ図した。
額賃料は650万円。12か分で7800万円。そこへ契約に基づく現点の遅延損害400万円を加えた請求が、浩司のへ差しされた。
《未払賃料等請求額 8200万円》
浩司はをつかみ、額を2度見直した。
「こんなものは認めない。
の所者とは、買い取りが終わるまで待つ話になっていた」
「そのはありますか」
「で話した。由美の父親は、会社を潰すようなじゃなかった」
「だから、くなるまで払わなかったの?」
会議が静まり返った。浩司は答える代わりに請求を机へ叩きつけ、伊藤先へ向き直った。
「代理では話にならない。しい所者をしてください。資産の扱いもらない相続なら、俺が直接説したほうがい」
伊藤先は、伏せていた登記事項証へを置いた。
「承しました。では、正式にご紹介します」
類がゆっくりと浩司のへ滑っていく。私は父のの鍵をテーブルに置き、正面の席からちがった。
「このビルのしい所者は――」
浩司が所者欄へ目を落とした瞬、その顔から笑みが消えた。