"離婚した5日後、私が92億円の都心ビルを相続したと知った夫" 第4話
部者と呼ばれた女
緊急面談当、私は父が遺した濃紺のスーツを自分の体にわせて直し、の鍵を鞄へ入れてビルへ向かった。磨かれたに靴音が響くたび、のひらには汗がにじんだが、斎で婚届を受け取ったときのような寒さはもうなかった。
午147分、1階のロビーへ入ると、エレベーターに浩司、美穂、がっていた。美穂は父の葬儀のと同じをまとい、浩司の腕には例のの計がっている。
私に気づいた浩司は、驚くより先に眉をひそめた。
「由美、こんなところまで何をしに来た。婚した途端、活に困ってを頼みに来たのか」
「14から、11階の会議に予定があります」
「そこは会社のな面談で使う。部者が入れる所じゃない」
美穂も私の古い鞄へ目を落とし、く笑った。
「50万円くらいなら、社も考えてくださるといますよ。でも今はしいオーナーとの話しいですから、終わるまでで待っていただけますか」
美穂はそう言いながら、浩司のネクタイを指先でえた。私が20以、取引先へる彼の襟元を直してきたことまで奪ったつもりなのだろう。以なら、その仕を見ただけで元が崩れたかもしれない。しかし今、私の鞄には父の遺言と登記事項証があり、目のの2がらない事実のほうがはるかにかった。
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葬儀の、浩司は慰謝料を請求しないことが温だと言った。今度は美穂が、私の28を50万円で買い取れるような調で話している。
浩司は警備員を呼び、私をへすよう命じた。づいてきた警備責任者は私の顔と来館者名簿を確認すると、背筋を伸ばして丁寧に礼した。
「田様は、本の正式なご席者として登録されております」
ロビーにいた数がを緩め、こちらを見た。浩司は自分の命令が退けられたことを隠すように咳払いし、くエレベーターを呼べと警備員へ言った。私は騒ぎをきくせずに済んだことへ礼を伝えたが、彼は「当然の対応です」と静かに答えた。誰かに正当な客として扱われるだけで、胸の奥に残っていたさな傷がほどけていった。
「田? 婚したから、もう俺の名字を使えないという当てつけか」
浩司はそうに言ったが、警備責任者は表を変えなかった。私はこので分をかさないよう事に頼んでいたため、彼は会議まで案内するとだけ告げた。
エレベーターの扉がくと、浩司は先に乗り込み、操作盤の11をく押した。
「誰に頼んで席を作ってもらったからないが、余計なを挟むな。俺は今、このビルの買い取りを決める」
「しい所者の同は取れているの?」
「話はついている。相続は経営も産もらない。
こちらが助けてやるんだから、断る理由はない」
鏡張りの壁に、勝ち誇った浩司と、黙ってを向く私の姿が並んでいた。以なら、その自信に押され、自分のほうが違っているのではないかと考えただろう。だが今は、彼が何を根拠に話しているのかがよく見えた。事実ではなく、相は自分に従うというい込みだけだった。
11階の会議には、伊藤先と管理責任者がすでに着席していた。浩司は私が末席に座るものとったのか、央の子を引いて自分で腰をろした。
しかし伊藤先は、テーブルの正面に用された席をで示した。
「田さん、こちらへどうぞ。本の判断をされる方のお席です」
私が正面へ座ると、浩司の笑みが初めてわずかに揺れた。