"家族写真の左端" 第3話
「なった?」
「はい。その状態で焼き付けてしまったため、古い写真の部がく写り込んだようです」
清郎は写真を見た。
だから男の姿だけが透けて見えるようにかったのか。
幽霊でも何でもない。
ただ、別のに撮られた写真の像が偶然なっただけだった。
志乃はほっと息を吐いた。
「それなら、気の悪いことではなかったんですね」
しかし源蔵の顔は変わらなかった。
「その古い乾板はどこにある」
「持ってまいりました」
亀吉は脇に置いていた包みを取りげた。
い箱のに、で包まれたガラス乾板が入っていた。
包みには、古びた墨の文字が残されている。
亀吉がそれを源蔵のへ差しした。
清郎は横から文字を読んだ。
「治34 瀬」
瀬。
自分たちのの名だった。
清郎は息を止めた。
「父、これ……」
源蔵は黙っていた。
亀吉は続けた。
「倉庫を調べましたところ、これが見つかりました。昔、うちで撮されたものです。おそらく今回の乾板となったのは、この枚かと」
「を見たのか」
源蔵の声が急に鋭くなった。
亀吉は戸惑った。
「確認のために……」
「誰に話した」
「誰にも。助にも、こののことだとは話しておりません」
源蔵はしばらく亀吉を見つめていた。
それから乾板へ目を落とした。
「この男の名は記録に残っているか」
「包みにはございません。
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ただ、瀬とだけ」
清郎はもうできなかった。
「宗吉というでしょう」
源蔵が勢いよく顔をげた。
「清郎」
「おばあさまがそう言いました」
「黙れ」
「でも、治34に瀬が撮った写真なら、うちの誰かなんでしょう?」
部の空気が張りつめた。
志乃が息子を止めようとしたが、清郎は父から目を逸らさなかった。
「なぜ僕は、そののことを度も聞いたことがないんですか」
源蔵のが膝ので握られた。
だが結局、何も答えなかった。
亀吉は居悪そうに線を落としている。
やがて源蔵は言った。
「乾板は置いていけ」
「はい」
「今のことは忘れてくれ」
亀吉はくをげた。
「承いたしました」
写真館の主が帰った、源蔵は乾板を自分の部へ持っていった。
そのの夕では、誰も写真の話をしなかった。
きぬも寝込んだままだった。
だが清郎のでは、疑問がますますきくなっていた。
自分のの名がかれた古い乾板。
祖母がっていた若い男。
父が異様なほど隠そうとする名。
宗吉。
夜になり、族が眠った。
清郎はそっと仏へ向かった。
仏壇の脇には、瀬の古い過帳がある。
自分の祖父や曽祖父の名なら見たことがあった。
清郎は灯りをづけ、記された名を順に追った。
しかし、普段かれている部分には宗吉という名は見当たらなかった。
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古い族写真も探してみた。
曾祖父。
祖父。
若い頃の父。
母。
親戚たち。
だが写真のの男と同じ顔は枚もなかった。
まるで、その物だけが瀬の歴史から切り取られている。
翌朝。
清郎が帳へ向かおうとすると、女がろから呼び止めた。
「清郎さま」
「何?」
「奥さまがお呼びです」
祖母のきぬだった。
きぬの部には、朝の柔らかなが障子越しに差し込んでいた。
昨より顔は戻っていたが、いつものきぬとはし違って見えた。枕元には湯みが置かれ、きぬは布団ので背を起こしていた。
「そこへ座りなさい」
清郎は言われた通り、枕元へ正座した。
しばらく、きぬは何も言わなかった。
庭から鳥の声が聞こえてくる。
清郎は待った。
やがてきぬがをいた。
「昨の男のことがりたいんだろう」
清郎は頷いた。
「宗吉というですか」
きぬは目を閉じるようにして、度く息を吐いた。
「宗吉は、おの伯父だよ」
清郎は言葉を失った。
父には兄がいた。
自分には伯父がいた。
その事実を、14度も聞かされていなかった。
「父のお兄さん……?」
「そうだ」
「どうして誰も教えてくれなかったんですか」
きぬはすぐには答えなかった。
「話すことを禁じられていたからだよ」
「誰に?」
「おの祖父に」
清郎は幼い頃にくなった祖父の顔をいした。
のでは今も「先代」
と呼ばれることがい。厳格で、商売にもの格式にもいこだわりを持つ物だったと聞いている。