"夫の娘は、私にだけ謝った" 第1話
「真由美、婚してほしい」
隆司がそう言ったのは、61歳の定退職を族で祝った翌の夜だった。
まで、男のと女の里奈が実へ来ていた。子どもたちからもらった束はまだリビングの棚に飾られ、蔵庫には祝いの席で余ったケーキが半分残っていた。
58歳の真由美は、夫が冗談を言っているのだとった。
「何それ。退職した途端に?」
「ふざけてない」
隆司はテーブルのへ茶い封筒を置いた。
そのに入っていたのは、婚届ではなかった。30代半ばとわれる女性の写真と、古い母子帳のコピー、それから戸籍関係の類だった。
「誰?」
真由美が写真を見ながら尋ねると、隆司はしばらく答えなかった。
「俺の娘だ」
真由美は夫の顔を見た。
「里奈じゃなくて?」
「もういる」
聞き違えたのだとった。
隆司と真由美は結婚して34になる。は32歳、里奈は29歳で、ともすでにをている。
「どういう?」
「結婚するに付きってた女性がいた。恵美っていうで、そのとのに子どもがいたんだ」
女性の名は川恵美。
隆司が学をて方へ就職した頃に交際していた相だった。
娘の名は綾。
36歳。
現は静岡県で訪問護師として働いているという。
「待って。あなた、子どもがいるってってたの?」
真由美が聞くと、隆司は首を振った。
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「最までらなかった」
「最って?」
「半」
真由美のが止まった。
半。
その、隆司は何も言わなかった。
定旅の話をした。
老の活費について相談した。
で庭の植をどうするかまで話した。
その全部をしながら、夫は別の娘と会っていた。
「半から会ってたの?」
「3回」
隆司は答えた。
綾の母・恵美は1にくなった。
遺品を理していた綾が、古いの束から隆司の名と所をった。そして数ヶ迷った末、度だけ会って話をしたいと連絡してきたという。
「それで、どうして婚になるの?」
真由美にはそこが分からなかった。
婚の話だ。
しかも隆司本も子どものをらなかったというなら、なくとも34の結婚活とは別の問題ではないか。
隆司は指を組んだ。
「綾に、父親としてできなかったことをしたい」
「したらいいじゃない」
隆司が顔をげた。
真由美は本気だった。
「36歳でしょう。会いたいなら会えばいいし、里奈とにもちゃんと説したらいい」
「そんな簡単な話じゃない」
「何が?」
「俺はあの子を36、にしたんだ」
「あなた、らなかったんでしょう?」
「結果は同じだよ」
隆司の声には、真由美が今まで聞いたことのない苦しさがあった。
「母親もくなった。あの子には今、族がいない」
「族がいない?」
真由美はその言葉に引っかかった。
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「結婚してないの?」
「婚してる。子どももいない」
隆司は続けた。
「だから、せめてこれからは俺がくにいてやりたい」
「婚しないとできないの?」
隆司は黙った。
い沈黙のあと、ようやく答えた。
「真由美に、俺の過まで背負わせたくない」
その言葉を聞いた瞬、真由美はしだけ笑った。
「きれいな言い方するのね」
「何が?」
「私のためみたいに言うところ」
隆司の顔が固くなった。
「違うの?」
真由美は聞いた。
「本当は、あなた自が今の族かられたいんじゃない?」
「そんなことは……」
「じゃあ婚する必ないでしょう」
隆司は答えられなかった。
その、真由美は初めて気づいた。
夫が話しているのは、突然現れた娘のことだけではない。
34の夫婦そのものを終わらせたい気持ちが、どこかにある。
綾というは、その理由になっているだけなのかもしれなかった。
翌、と里奈が呼ばれた。
隆司から事を聞いたは、最初から険しい顔をした。
「父さん、分かんないよ」
「何がだ」
「娘がいたことと母さんと婚すること、関係ないだろ」
「おには分からない」
「分かる必ある? 母さん34緒にいたんだぞ」
方、里奈は何も言わなかった。
しばらくしてから、父へ尋ねた。
「その、なんでしょ?」
「今はな」
「お母さんくなったばっかり?」
「1」
里奈はし考え、なことを言った。
「私、父さんの気持ち、し分かるかも」
が妹を見る。
「何言ってんの?」
「36らなかった娘が突然てきたんだよ。