"清掃員が書いた設計図" 第2話
シャッターをけると、入のに若い女性がっていた。
柄で、飾り気のない装。
両には履歴を抱えている。
「何か用かい?」
夫が尋ねると、女は慌てたようにくをげた。
「こちらで、を募集していると聞いて……」
「募集?」
確かに清掃や雑務を任せるを探していた。
だが、件費に余裕があるわけではない。
「履歴、見せてもらえる?」
「はい」
差しされたをく。
名は佐藤ゆい。
21歳。
夫の目が、学歴欄で止まった。
学卒業。
以の記載はなかった。
職歴欄には期のアルバイトがいくつも並んでいる。
倉庫。
コンビニ。
。
ビル清掃。
どれもく続いていない。
「正直に言います」
ゆいは夫が何も言うにをいた。
「どこへっても、学歴のところで断られました」
握っているが震えていた。
「清掃でも雑用でも構いません。働かせていただけるなら、何でもやります」
夫は履歴をもう度見た。
には何本もの折り目がついていた。
丁寧に伸ばしてはまた封筒へ入れ、それを繰り返した跡のように見えた。
何社を回ったのだろう。
「には?」
夫が聞いた。
ゆいはしだけ目を伏せた。
「けませんでした」
それ以は言わなかった。
夫も聞かなかった。
「から来なさい」
ゆいが顔をげる。
「……え?」
「朝7。遅れるなよ」
「でも、あの……」
「働きたいんだろ?」
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ゆいの目がみるみる赤くなった。
「はい」
くをげる。
「ありがとうございます」
ところが、従業員たちの反応はたかった。
「あの子、本当に雇うんですか?」
「卒ですよ?」
「械のこと何も分からないでしょう」
「雑用ならもっと配のでもよかったんじゃないですか」
夫は聞き流した。
ゆいは翌朝、約束より30分く来た。
誰も指示していないのに入を掃き、を拭き、ゴミ箱を空にし、油で汚れた具棚まで磨いた。
「おい、清掃員」
従業員のが声をかける。
「これも捨てといて」
「はい」
誰も「佐藤さん」とは呼ばなかった。
清掃員。
雑用。
それがゆいの名代わりになった。
それでも、ゆいは毎回をげた。
「はい。分かりました」
には謝る必すらない面でも、
「すみません」
と言った。
ここを追いされたくなかった。
ようやく自分を受け入れてくれた所だったからだ。
ある夜。
全員が帰ったので、ゆいは、作業台のにっていた。
蛍灯が1本だけ灯っている。
昼、従業員が投げ捨てた良部品の破片をそっと拾いげた。
割れた断面。
さな気泡。
処理に残った応力の痕跡。
普通なら、ただの属片だった。
しかし。
ゆいの目には、その破片がまるで文章のように見えていた。
「……やっぱり」
さく呟く。
ゆいには、誰にも話していない秘密があった。
ゆいがへ学しなかったのは、勉が嫌いだったからではない。
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むしろ逆だった。
学の頃から数学と理科が好きで、教科にかれていない問題まで図館で調べるような子供だった。
担任は業専への学を勧めてくれた。
けれど、学3の。
庭の経済状況が急激に悪化した。
学費用を用する余裕はなかった。
「働く」
15歳のゆいは、自分でそう決めた。
同級たちがしい制を買ってもらい、から始まる活の話をしている頃。
ゆいはコンビニの夜シフトへ入った。
夜遅くまでレジを打ち、を磨き、商品を補充する。
けれど、勉を諦めたわけではなかった。
料が入ると、ゆいが買ったのはでも化粧品でもなかった。
区図館へき、学を借りた。
学向けの材料力学。
力学。
応用数学。
属材料学。
最初は、1ページ読むだけでも何もかかった。
の分からない記号ばかりだった。
先はいない。
質問する相もいない。
だから、分からなければのページへ戻った。
10回読んでも駄目なら20回。
それでも分からなければ、さらに基礎の本を探した。
ノートを買うさえ惜しいは、図館で必な部分だけコピーした。
アルバイトから帰った夜。
さな部の机にコピー用を広げ、朝方まで勉する。
数式が解けたは嬉しかった。
誰にも褒められない。
成績表もない。
単位もない。
卒業証ももらえない。
それでも、理解できること自体が嬉しかった。
そうして6が過ぎた。