"ゆで卵ひとつで嫁をやめた朝" 第1話
「べられるだけ謝しろって話よ」
蔵庫からされたさな皿が、私の目のに置かれた。皿のにあるのは、殻もむかれていないゆで卵が1つだけで、蔵庫からしたばかりなのかい殻には細かな滴が浮かんでいた。計を見ると午9をし過ぎたところで、私は16の夜勤を終えて病院から帰ってきたばかりだった。
卓には炊きたてのご飯があり、噌汁の湯気ががっている。焼き魚、卵焼き、鉢まで並んでいて、夫の悟と義母の代は、ちょうど事を終えるところだった。私の席のだけ何も置かれていなかったから、最初は単純に取り分けるのを忘れたのだとっていた。
「私の分は、これだけですか?」
そう尋ねると、72歳の代は湯呑みを持ったまま私を見げた。申し訳なさそうな顔をするどころか、唇の端には笑いさえ浮かんでいる。私が何を満にっているのか、本当に理解できないという表だった。
「そうよ。何、その顔。夜遊びみたいなにふらふら帰ってきて、よくべるものがあるとうわね」
「夜遊びじゃありません。夜勤です」
「夜勤、夜勤ってげさなのよ。夜の病院なんて、どうせ座って見てるだけでしょ」
私は返事をせず、悟の方を見た。47歳になる夫は焼き魚の骨を箸で避けながら、こちらを見ようとしなかった。
広告
14緒に暮らしていれば、その態度が「巻き込まれたくない」というだと嫌でも分かる。
「あなたはどううの?」
呼ばれてようやく悟は聞から顔をげた。面倒そうに度息を吐き、母親と私を交互に見たあと、また線を面へ落とした。
「たかが朝飯だろ。卵があるだけいいじゃん。いちいち揉めるなよ」
その瞬、議なくらいのが静かになった。鳴りたいとも、泣きたいともわなかった。ただ8、自分のでしずつ曲がっていた何かが、音もなく完全に折れたのだと分かった。
「分かりました」
代が勝ち誇ったように湯呑みを持ちげた。
「そうそう。最初から素直にそう言えばいいのよ。寄りに答えするから、朝から嫌な気分になるの」
私は子を引いてちがった。
「では、今で嫁やめます」
代の湯呑みが空で止まった。
「は?」
声をげたのは悟だった。
私はそのまま寝へ向かい、クローゼットの奥から旅鞄を引っ張りした。夜勤けで体は鉛のようにかったのに、通帳、印鑑、保険証、免許証、与細、仕事で使う聴診器とペンライトを詰める指だけは妙に正確にいた。
最に押し入れをけた。そこには、8度も捨てなかったカード会社の利用細が入った段ボール箱と、固定資産税の納税通やを建てた頃の古い通帳をまとめた箱が置いてある。
広告
なぜ持っていこうとったのか、その点では自分でも説できなかった。
ただ、これだけはこのに残してはいけないとった。
「千、ちょっと待てって。落ち着けよ」
悟が廊まで追ってきたが、私の腕には触れなかった。止めたい顔だけをして、決してを伸ばさないところも、8変わらなかった。
台所から代の声がんできた。
「放っておきなさい。2、3したら戻ってくるわよ。くところなんてないんだから」
私は玄関で靴を履いた。両親は結婚にくなり、兄弟もいないから、私に帰る実がないことを代はっている。それを確かめるように、同居初にも「あなたは帰るがなくて変ね」と笑っていた。
「ホテルにでも泊まって、おがなくなったら泣いて帰ってくるわよ。護師のお料なんて、たかがれてるんだから」
私は振り返らなかった。
「お母さん。私、その“たかがれてる料”で、このを8回してきたんですけど」
「何を言ってるの? がおかしくなったのね」
玄関のへると、6の朝の空気は湿っていた。に荷物を積み込み、運転席へ座った私は、エンジンをかけるにスマートフォンを取りした。
最初の話はカード会社だった。
「族会員のカードを1枚、止してください。本会員は私です」
続きは3分で終わった。
そのカードを8財布の番に入れ、「息子が持たせてくれたカード」
だと信じて使い続けてきたのは、代だった。