"ただいまの裏にあった10年" 第4話
2、どこで何をしていたのかさえ分からないのだ。
変わって当然だとった。
1かが過ぎる頃には、男性は佐藤での活へ自然に馴染み始めた。
ある朝、かず子の作った卵焼きをべながら、ぽつりと言った。
「これ、懐かしい気がする」
かず子の目が輝いた。
「そうよ。健、昔から私の卵焼きが好きだったの」
男性はべ、し笑った。
「やっぱり美しい」
その笑顔を見た瞬、かず子のに残っていた最のまで消えていった。
昭63の。
男性は、かつて健が働いていたへ復職した。
医師から無理をしないよう言われていたため、最初は簡単な作業から始めた。2の空と体力のがあり、以と同じプレスをすぐ任せることはできなかった。
それでも働きぶりは真面目だった。
誰よりく勤し、作業には械の周囲を丁寧に清掃した。分からないことがあれば素直に聞き、覚えたことは同じ失敗をしないよう何度も確認した。
「無理するなよ。しずつ戻せばいい」
同僚たちは温かく接した。
本孝志も、そのにいた。
「よく戻ってきたな」
復職初、本はくそう言った。
男性はくをげた。
「ご配をおかけしました」
本はその顔をしばらく見つめ、それ以は何も言わなかった。
半も経つ頃には、男性は以と同じように械を扱えるようになった。
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も働きぶりを評価し、職では「佐藤健が戻ってきた」という事実が完全に常の部になっていった。
佐藤にも、穏やかなが戻った。
かず子は毎朝弁当を作った。
卵焼き。
おにぎり。
には健が昔好きだったおかずを詰める。
男性は帰宅すると空になった弁当箱を台所へ持っていった。
「母さん、今も美しかった」
その言葉を聞くだけで、かず子は嬉しかった。
誠も休には男性を鉄所へ連れていった。
旋盤の音や属を削る匂いので、父親は自分の仕事をしずつ教えた。
「いつかこっちを継いでくれたら嬉しいんだがな」
冗談めかして言うと、男性は静かに笑った。
「いつか、ちゃんと覚えたいです」
父と母にとって、失踪していた2は次第にざかっていった。
曜には3で買い物へった。
には温泉へかけた。
かず子は息子の好物を作り、誠は晩酌をしながら仕事の話をした。
普通の族が持つ普通の常だった。
平成元。
代が昭から平成へ変わっても、3の活は穏やかに続いた。
平成2になると、かず子は息子の結婚を気にし始めた。
「健、もう28歳でしょう。そろそろお嫁さんのことも考えたら?」
夕の、突然そんな話を持ちした。
男性は箸を止めた。
「まだいいよ」
「何言ってるの。いい頃じゃない」
所から話が来ているという。
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相は25歳の女性だった。
内のレストランで見いがわれた。
相は穏やかで、男性も丁寧に話した。雰囲気は悪くなかったが、結婚の話になると男性は決断できなかった。
「もうし考えさせてください」
結局、縁談はそのまま終わった。
かず子は残そうだったが、無理いはしなかった。
「あなたのだから、あなたが決めればいいわ」
男性はその言葉に救われたように微笑んだ。
平成4、で主任に昇した。
失踪以の記憶が完全に戻ったわけではなかったが、職で必な技術はほとんどにつけ直していた。
活も定した。
平成5のには、再び見いの話が持ちがった。
今度の相は27歳で、何度か会ううち互いに好を持つようになった。
それでも結婚の話が具体になると、男性はまた迷った。
「すみません。やっぱり今は、まだ……」
へ戻った男性へ、かず子が配そうに尋ねた。
「健、何か悩んでいるの?」
「何もないよ」
「じゃあ、どうして」
男性はしばらく黙った。
「自分に自信がないんだとう」
それ以は言わなかった。
かず子は、失われた2の記憶が原因なのだろうとった。
自分がどこにいて、どんな活をしていたのか分からない。
そんな空を抱えたまましい庭を持つことが怖いのかもしれない。
母親はそう理解した。
しかし男性のにあったは、もっと根いものだった。
自分は佐藤健ではない。
両親が信じている息子ではない。