"四十九日の注文票" 第1話
夫のを終えた夜、息子から「の朝までにの鍵を渡してほしい」と言われた。
仏壇には、まだ線の煙が細く残っていた。座敷には親戚がみ残したビール瓶や、をつけられなかった仕し弁当が並び、59歳の私はでそれを片づけていた。
「の朝までって、どういうこと?」
濡れた布巾を握ったまま聞き返すと、男の拓也は私と目をわせず、テーブルのへ茶封筒を置いた。隣には妻の莉奈が座り、黒い喪の着を脱いでスマートフォンを見ていた。
封筒のには、の登記事項証と賃貸借契約の写しが入っていた。
夫と私が32続けてきた惣菜《おかず処まどか》は、舗兼宅だった。1階がと厨、2階に私たちのまいがあり、夫がくなってからも私は毎朝5に起き、煮物や卵焼きを作ってをけていた。
ところがと建物は、半に夫から拓也へ贈与されていた。
「お父さんが、そんなことを?」
「税のこともあるから、から相談してたんだよ。母さんに話すと反対するとったんじゃないかな」
拓也は、まるで父親の配慮を説するような調だった。
私は類の付を見た。夫が膵臓の病気で入院する2週になっている。あの頃の夫は欲を失い、夜に何度も痛みで目を覚ましていたが、まだ自分で役所やへくことはできた。
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それでも、を息子へ譲るなどという話は度も聞いていなかった。
「建物を拓也に渡したとしても、は私が続けるでしょう。お父さんとも、そう話していたのよ」
「それが無理なんだ」
拓也はようやく顔をげた。
この帯では、駅再発の話がんでいた。古い商が並ぶ通りを取り壊し、分譲マンションと型ドラッグストアを建てる計画で、拓也はすでに産会社と売却の仮契約を結んでいるという。
売却額は6,800万円だった。
宅ローンを抱える拓也にとって、古びた惣菜は父母のいではなく、まとまったに換えられる資産だった。
「母さんには、駅の反対側に部を用したから。賃は最初の半だけ俺たちが払う」
「半だけ?」
「そのはもあるし、を続けたいならスーパーの惣菜売りで働けばいいだろう」
莉奈がスマートフォンを伏せ、初めて話に加わった。
「お義母さん、もう59歳ですよね。朝から晩まで自営業を続けるより、決まっただけ働いた方が楽だといます。おも最、昔ほどお客さんが来てないですし」
違ってはいなかった。
夫が倒れてから品数は減り、常連客のには齢で来られなくなったもいる。くにできたスーパーは、午7になると惣菜を半額にした。私のでは、その値段に対抗できない。
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それでも、を放すかどうかをに決められる理由にはならなかった。
「どうして、私に相談しなかったの?」
拓也はさく息を吐いた。
「相談したら、絶対に嫌だと言っただろう」
「当たりでしょう」
「だからだよ」
その言葉で、胸の奥にあったものがえた。
拓也は私を説得できなかったのではない。最初から、私の見を聞く必がないと考えていたのだ。
翌朝、産会社の担当者が来るという。は3週に閉め、2かには退しなければならない。仮契約を破棄すれば違約が発すると、拓也は淡々と説した。
「ずいぶんから決めていたのね」
「父さんも同していた」
「その証拠は?」
拓也は登記類を指さした。
と建物を譲ったことが、を閉めることへの同になるのだろうか。私はそう尋ねたかったが、莉奈が先にちがった。
「今は疲れているので帰りませんか。お義母さんも、現実を受け入れるが必だといます」
玄関で靴を履く2に、私はもう度だけ聞いた。
「の預はどうなっているの?」
拓也の背が止まった。
夫が管理していたの座には、なくとも1,200万円ほどあるはずだった。の売からしずつ残し、厨設備の交換や老のために貯めていただった。
「父さんの入院費や借の返済で、ほとんど残ってないよ」
「借?」
「詳しいことは、あとで説する」
拓也は振り返らなかった。
2が帰ったあと、私は仏壇のに座った。