"消された母の名前" 第8話
恵まれるように。
誰かの都ではなく、自分のをきられるように。
しかし清子と孝雄が引き取ることになり、《里美》と名づけた。
「里」は、故郷を忘れないように。
「美」は、直子の母・ハルが好きだった漢字だった。
《名を奪われたとった期もありました。でも今は、里美という名であなたがきてきたを切にしたいとっています》
《まれてきてくれて、ありがとう》
里美はを読み終え、い泣いた。
したからではない。
30歳のに読んでいたら、何をっただろう。
会いたいとったか。
ったか。
を破ったか。
その答えを、今の里美はることができない。
清子が奪ったのは、直子とのだけではなかった。
20歳、25歳、30歳の里美が、それぞれ自分で考える会だった。
夜、清子の部へった。
母は布団へ入っていたが、眠っていなかった。
「全部読んだ」
清子は壁を向いたまま答えた。
「そう」
「どうして渡さなかったかは、もう聞かない」
清子の肩がしいた。
「何度聞いても、答えは同じでしょう。私を失うのが怖かった。それしかないんでしょう」
「悪かったとってる」
初めて、清子が謝った。
里美はその言葉を待っていたはずだった。
だが、聞いてもりは消えなかった。
「謝ったら終わりだとわないで」
「ってない」
「私、まだお母さんを許せない」
「分かってる」
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「直子さんに、また会う」
清子は壁へ向いたまま、く黙っていた。
「止めてもくんでしょう」
「く」
清子はさく息を吐いた。
「なら、聞いてきて」
「何を?」
「ののこと」
清子は、それ以話さなかった。
里美は辺の写真をいした。
1968。
清子と直子がセーラーで並んでいる。
母がをた、「へかなきゃ」と言った。
あの写真のに、何かがあった。
翌週、里美は再び若葉の郷を訪ねた。
12通のを持って。
直子はを見ると、驚いた。
「姉さんが持っていたんですか」
「父が隠してたみたい。母はけてなかった」
「読まなかったんですね」
直子は、ししたように見えた。
「どうしてするの?」
「姉さんが読んだら、もっと私を嫌うとったから」
「もう分嫌ってたでしょう」
直子は苦笑した。
里美は辺の写真を見せた。
「母が、ののことを聞けって」
直子の表が変わった。
写真を両で持ち、く見つめた。
「姉さんは、覚えていたんですね」
「何があったの?」
直子は写真の、しようとしていた。
16歳だった。
父親から、学を辞めて元のへ入るよう言われていた。直子は京へき、飾の勉をしたかった。
清子は当23歳。
教員として働き、結婚を考えている孝雄がいた。
直子は姉へ、緒に逃げてほしいと頼んだ。
「どうして母まで?」
「姉さんも、父に結婚を反対されていました。
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孝雄さんのが裕福ではないという理由でした」
姉妹は荷物を持ち、辺の駅までった。
ところが列が来る直、清子は直子のをした。
「私はけない」
両親を捨てられない。
教員の仕事も辞められない。
孝雄とは正しい形で結婚したい。
清子はそう言って、でへ戻った。
直子も列へ乗らなかった。
「私は、姉さんが裏切ったといました」
その数、直子が妊娠したも、清子はの体面を優先した。里美を放せと言った。
直子にとって清子は、切なに必ず族の規則を選ぶだった。
「でも姉さんは、あなたを引き取った」
直子は写真をテーブルへ置いた。
「初めて、父に逆らいました。教員の仕事も辞め、町のに何を言われても、あなたを放さなかった」
「どうして?」
「私にも分かりません」
直子はし笑った。
「姉さんは、私を救えなかったことを、あなたを育てることでやり直そうとしたのかもしれません」
「私は、代わりだったの?」
「それも、私には分かりません」
直子は里美を見た。
「姉さん本に聞いてください」
里美は答えなかった。
清子の認症はんでいる。
尋ねても、過と現が混ざるかもしれない。
それでも、答えが完全に失われるに聞かなければならない。
里美はその、直子と2話した。
母娘らしい会話にはならなかった。
好きなべ物。
仕事。
結婚しなかった理由。
直子の施設での暮らし。
どれも、く会わなかった親戚へ尋ねるような会話だった。
帰り際、直子が言った。