"退職金より失ったもの" 第5話
所は、佳代が暮らす平だった。44歳になる直は京の建設会社に勤務していたが、美紀から事を聞き、仕事を調して帰ってきた。
秀治は嫌な顔で座卓のに座った。
「親の夫婦喧嘩に、子どもが首を突っ込むな」
「夫婦喧嘩で済ませられる話なら、俺たちも来てないよ」
直のには、佳代から見せてもらった記録の写しがあった。
「父さん。俺の学の学費、お母さんが自分の定期を崩してしてくれたんだな」
「俺の料がない期だったから、にしただけだ」
「返したの?」
秀治は黙った。
美紀もをいた。
「私の留学費用も、お母さんのおだった。お父さんはずっと、自分がかせてやったみたいに話していたよね」
「族のなんだから、誰がしても同じだろう」
その瞬、佳代が静かに顔をげた。
「では、退職も族のおでいいのね」
「またその話か。退職は性質が違う」
「どう違うのか、俺にも分かるように説してよ」
直が問いかけると、秀治は苛たしげに膝を叩いた。
「おたちは、全員母親の方をするのか。俺が働かなければ、この族は暮らせなかったんだぞ」
「そのことは誰も否定してない」
直の声は落ち着いていた。
「父さんが働いてくれたことには謝してる。でも、それを理由に母さんの仕事を無かったことにするのは違うだろう。
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父さんが転勤を断らずに済んだのは、のことを全部母さんに任せられたからじゃないの?」
「それが妻の役目だ」
「だったら、夫の役目を果たしたことだけ、どうして額に換算されるんだよ」
秀治は息子を睨んだ。
「気を言うな。おを学へかせたのは誰だ」
「だから、そののくを母さんがしたんだろう」
部に沈黙が落ちた。
佳代は、子どもたちに父親を責めさせたいわけではなかった。をしたことを恩に着せるつもりもない。
「直、美紀。もういいわ」
「でも、お母さん」
「あなたたちに使ったおは返してほしくて記録したんじゃないの。族が困らないように、何にいくら使ったのか残していただけ」
佳代は秀治へ向き直った。
「私は、あなたがで働いてくれたことに謝していた。だからのことを引き受け、あなたのお母さんの介護もした。自分の収入を族のために使うことも嫌ではなかったわ」
「だったら、なぜ今さら責める」
「責めているんじゃない。あなたが全部自分の力で成し遂げたと言ったから、違うと伝えているの」
秀治は腕を組み、顔を背けた。
「が欲しいなら、そう言えばいい」
佳代の目に、かすかなしみが浮かんだ。
「まだ、そうっているのね」
青いファイルから1枚のを取りし、秀治のへ置いた。弁護士が作成した、現点の財産覧だった。
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自宅の査定額から宅ローン残債を差し引いた純資産。夫婦で積みてた預。秀治の退職。佳代の相続財産。そして双方の見込額。
佳代が法に主張できる額は、秀治が像していたよりきかった。
方で、自宅購入に佳代の父から贈られた450万円や、相続預からされた介護費用などを考慮すれば、「も預も全て秀治のもの」という主張は到底通らない。
「まで分けるつもりか」
「私は、あなたから奪いたいんじゃない。公平に清算したいの」
「俺をこのでから追いす気か」
「そのをたのは私よ」
佳代の言葉に、秀治は何も返せなかった。
族会議は結論がないまま終わった。
帰り際、秀治は玄関で靴を履きながら、さな声で言った。
「佳代。今からでも戻れば、退職の部は使わせてやる」
佳代はしばらく夫の背を見つめた。
「あなたは今も、私に自分のおを使う許を与えるだとっているのね」
その声に振り返った、佳代はすでに襖を閉めていた。
秀治は、自分が利になったのは佳代が子どもたちを方につけたせいだと考えた。
そこで元同僚の杉を居酒へ呼びし、妻の勝さを訴えた。杉なら、会社で働いた男の苦労を理解してくれるとったのだ。
「退職を俺のだと言っただけで、をたんだぞ。
しかも弁護士までてやがった」
杉は黙ってビールをんだ。
「どうう。女がげさなんだよな」