"退職金より失ったもの" 第3話
「私のおよ」
「結婚してから同じ座に入れただろう。夫婦のじゃないか」
しの沈黙の、佳代は尋ねた。
「秀治さん。昨、誰が稼いだかが事だと言ったでしょう?」
「それとこれは別だ」
「どう別なの?」
秀治は答えられなかった。
「全部説するわ。相続したお、私の与、あなたの与、族のために私がて替えたお。誰が何をしたのか、専にも確認してもらいます」
「そこまでげさにするな!」
「あなたが望んだのよ。全部、きちんと分けましょう」
話が切れた。
秀治は通帳を握ったまま、のついていない部にち尽くした。
退職2760万円は残っている。それなのに、突然、元の台だけが消えたような覚に襲われていた。
佳代が移った平は、古いが入れのき届いただった。
6畳のが2つとさな台所。縁側の先には、母が育てていた梅のが残っていた。価な具はなかったが、秀治の顔をうかがわずに息をつけることが、佳代には何より贅沢にじられた。
座卓に青いファイルを広げると、結婚当初から保管してきた記録が代順に並んでいた。
最初のきな支は、結婚6目に購入した自宅のだった。
秀治は「俺が買っただ」と言い続けてきたが、800万円のうち450万円は、佳代の父から贈られた資だった。残る350万円は夫婦の貯からし、宅ローンは秀治名義で組んだものの、計が苦しい期には佳代の与も返済へ回していた。
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次は、秀治の母の介護費用だった。
老ホームの入居がした際、佳代は自分の母から相続した預から240万円をて替えた。秀治は「半の賞与で返す」と言い、佳代がのため用した確認に署名している。
しかし、そのは返されなかった。
男の学入学には、学費と1暮らしの準備に190万円。女の留学費用に120万円。どちらも佳代が働いて積みてた定期預から支した。
子どものために使ったを取り戻したいとはわない。ただ、秀治が「族をわせたのは俺1だ」と言う以、事実は理しておく必があった。
計座にあった約1920万円の内訳も確だった。
母から相続した預の残りが680万円。平を貸して得た賃収入の累計が740万円。経理補助の与から積みてた分が500万円だった。
本来、相続財産は夫婦で築いた共財産とは別に扱われる。佳代は計座へ移す際にも、資の所が追えるよう記録を残していた。
から複数回に分けて移したのは、使い込みではない。混していた自分の資を、税理士の助言に従って佳代名義の座へ戻しただけだった。
それでも、佳代には迷いがあった。
法に自分のものだからといって、39暮らした夫に何も告げず理したことは、正しかったのだろうか。自分も秀治と同じように、を武器にしているのではないか。
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卓を置いた、玄関のチャイムが鳴った。
訪ねてきたのは、女の美紀だった。
「お母さん、丈夫?」
美紀は38歳。くので護師として働き、学の息子を育てている。佳代が事を話すと、勤務を終えたで駆けつけてくれたのだ。
「お父さんから話が来たの。お母さんがのおを全部持ち逃げしたってってた」
「そう言っているのね」
「私は信じてない。でも、どうして急にてきたの?」
佳代は昨夜の会話をありのまま伝えた。
美紀は黙って聞いていたが、「にいただけ」という言葉のところで、唇をく結んだ。
「私が学の、お父さんが仕事で倒れたことがあったでしょう。あの、お母さんは毎病院へ通いながら、私たちの世話もして、夜は内職までしていたよね」
「昔のことよ」
「お父さんはらないんだとう。自分が見ていないところで、お母さんが何をしていたか」
佳代はく笑った。
「らないんじゃないわ。ろうとしなかったのよ」
美紀は青いファイルに目を落とした。ページごとに貼られた領収、付と理由が記されたメモ、秀治の署名。母が39、族の暮らしを守るためにつけ続けた記録だった。
「お母さん、婚するの?」
その問いに、佳代はすぐ答えられなかった。
夫の言葉に傷ついた勢いだけで、残りのを決めたくはない。