"余命半年からの再出発" 第1話
「治療をしなければ、半ほどになる能性があります」
医師がそう告げた、58歳の桐佳代子は、自分が何を聞かされたのかすぐには理解できなかった。
診察の壁には、淡い緑の森を描いた絵が掛かっていた。医師の机にはパソコンと体模型があり、その横に佳代子の検査結果が置かれている。いのにかれた《悪性リンパ腫》という文字だけが、ほかの文字より濃く見えた。
「半というのは、私の命がですか」
佳代子が尋ねると、医師は慎に頷いた。
「何も治療をしなかったです。ただし、この病気はが速い方、薬が効く能性も分あります。病気が広がっていることと、治療できないことは同じではありません」
首、胸、腹部のリンパ節に病変があり、骨髄にも部広がっている。病期だけで言えば4期にあたるが、すぐに終末期というではない。入院して追加検査をい、抗がん剤を組みわせた治療を始める必があるという。
医師はつずつ説した。
吐き気。
脱毛。
染症への注。
のしびれ。
治療が効かない能性。
途で薬を変更する能性。
佳代子は何度も頷いたが、言葉の半分もに入らなかった。
隣に座っていた夫の誠は、ほとんど質問をしなかった。
結婚して33。誠は、分からないことがあるとすぐに質問するだった。
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量販では蔵庫の消費力を何度も確認し、旅の予約ではキャンセル料について細かく聞く。
その夫が、妻の治療について何も尋ねない。
佳代子は議にった。
診察をたあと、病院の廊にある子へ座った。誠は自販売でを買い、佳代子の隣ではなく、つ空けた席へ腰をろした。
「何からしたらいいんだろうね」
佳代子は独り言のように言った。
「先が言った通りにするしかないだろう」
誠はペットボトルの蓋をけた。
「入院は来週からだって。パジャマとか、タオルとか用しないと」
「そうだな」
「治療、半くらいかかるかもしれないって」
「聞いてたよ」
それだけだった。
佳代子は夫の横顔を見た。しんでいるようにも、揺しているようにも見えない。ただ、く病院をたいの顔をしていた。
帰りのでも、会話はなかった。
佳代子は助席から流れていく町を眺めた。スーパーので自転を止める女性、保育園の子どもたち、ガソリンスタンドでをげる員。誰もが普通の午を過ごしていた。
3まで、佳代子もそのにいた。
朝を作り、所の直しでパートをし、夕方に買い物をして帰る。夫の夕を用し、京で働く息子・翔太からの連絡がないことへ文句を言いながら、テレビを見て眠る。
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首の付け根にさなしこりを見つけたも、疲れているだけだとった。
夜に汗をかき、体が3かで7キロ減っても、齢のせいだと考えた。欲がないのに痩せたことをしび、着られなくなっていたスカートを箪笥からした。
病院へくよう勧めたのは、パート先の主だった。
それから2週で、佳代子のには「悪性」「4期」「半」という言葉が並んだ。
自宅へ着くと、誠はの鍵を玄関の棚へ置いた。
「話がある」
佳代子は靴を脱ぎながら振り返った。
「治療のこと?」
「それもある」
誠は居へ入り、テーブルの引きしから茶い封筒をした。病院へくから用されていたらしく、封筒には佳代子の名がかれている。
に入っていたのは、婚届だった。
夫の欄には、すでに誠の署名と印鑑があった。
佳代子は類と夫の顔を交互に見た。
「どういうこと?」
「から考えていた」
「って、いつから?」
「半くらいから」
佳代子は子の背にを置いた。
っているのが急につらくなった。
「今、私が病気だと分かったばかりでしょう」
「だから、今言うしかないとった」
「だから?」
「治療が始まったら、言えなくなる」
誠は佳代子を見なかった。
夫婦の関係は、数からえていた。会話は事との用事だけで、休も別々に過ごすことが増えていた。
それでも婚を考えているとは聞いていない。
「ほかに誰かいるの?」
誠は否定しなかった。
職くので働く、44歳の女性だという。