"消えた実印" 第13話
「無理に名をつけなくてもいいんじゃないでしょうか」
文は織を見た。
「嫁じゃなくなって、し気楽?」
「しどころではありません」
あまりに正直な答えだったので、全員が笑った。
「私も、姑じゃなくなって気楽よ」
文も言い返した。
「では、これからは文さんと呼びましょうか」
「急にみたいで嫌」
「難しいですね」
「お義母さんでいいわよ」
「元お義母さん?」
「それはいから駄目」
また笑いが起きた。
関係が終わったから、すべてを失うとは限らない。
名が変わっても、残るつながりがある。
同に、以と同じ族へ戻る必もない。
距を取り、選び直しながら続ける関係もある。
文は、ようやくそれを受け入れられるようになっていた。
の検査で、文の認能にきな変化はなかった。
医師からは、運、事、との交流を続けるよう勧められた。文は週に2回、商の体操教へ通い始め、に度は域の事会にも参加した。
ガスコンロはIHへ替えた。
薬は曜ごとに分けられるケースへ入れ、朝むと活メモに丸をつける。気料と料は座振替へ変更した。
活メモは、織と交互につけていた。
《93 体操教。隣のと名を違えた。向こうも私を別のと違えたので、お互いさま》
《98 織さん来訪。蔵庫に豆腐2丁。今回は売りだったので違いではない》
《912 美、模擬試験。
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数学が悪かったと言う。護師に数学は必なのかと聞いたら、必だとられた》
織もに返事をいた。
《豆腐は本当にかったです。ただし、来週までにべてください》
《数学は必だそうです。私もりませんでした》
以のノートは、失敗を監される記録に見えた。
今は、自分が暮らしている証拠のようにえる。
達也からの返済は、予定通りではなかった。
最初の3かは2万円ずつ振り込まれたが、4か目に止まった。弁護士が連絡すると、派遣の仕事を辞め、別の職を探しているという。
文は代わりに払おうとはしなかった。
返済が遅れている事実だけを記録し、弁護士へ任せた。
達也から々、いが届いた。
《仕事が決まりました》
《酒はやめています》
《美へをきましたが、返事はありません》
文は返事をするもあれば、しないもあった。
息子だから、すべて受け止める必はない。
それでも完全に切り捨てることもできない。
の終わり、達也から通のが届いた。
《母さんが代の借を父さんに黙って払ってくれたことをいしました》
《あのから、困れば誰かが最に何とかしてくれるとっていたのかもしれません。母さんのせいだと言いたいわけではありません。そうった自分の責任です》
文は同じ部分を何度も読んだ。
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初めて、達也が誰かを責めずに自分のことをいていた。
《まだ会ってほしいとは言いません。取ったを返してから、もう度をきます》
文はすぐには返事をしなかった。
1週、い文章だけを送った。
《待つとは約束しません。でも、あなたが自分で返すことを願っています》
《体だけは切にしなさい》
母親としての言葉を、今度も消さなかった。
3、庭の梅が咲いた。
枝が隣の敷へ伸びていたため、植職へ剪定を頼んだ。
作業当、織も来た。
「切りすぎじゃない?」
文は脚のの職へ何度も声をかけた。
「お義母さん、プロに任せましょう」
「正雄が植えたなのよ」
「切っても、来また伸びます」
「もし枯れたらどうするの」
職が苦笑していた。
織は文を庭の端へ連れていった。
「見ていると気になるので、お茶を入れましょう」
「私のなのに、どうして追いされるの」
文句を言いながらも、文は台所へ戻った。
湯を沸かしていると、織が窓のを見ながら言った。
「私、お付きいしてほしいと言われました」
文のが止まった。
「誰に?」
「職のです」
「どんな?」
「お義母さん、急に顔が姑になっています」
「あなたの姑じゃないでしょう」
「そうでした」
織は笑った。
相は同じ職の2歳の男性で、数に妻をくしているという。以から仕事の相談をしていたが、婚が成して半以経った頃、事に誘われた。