"消えた実印" 第12話
残りは分割で返す。
文の60万円についても、毎2万円ずつ返済するを作った。
達也は文へ直接話をかけてこなくなった。
弁護士を通じ、いが届いた。
《母さんに迷惑をかけて申し訳なかった》
《借りたは返します》
《ただ、織が最初から婚するつもりで俺を追い込んだことも分かってほしい》
最の文を見て、文はを閉じた。
達也はまだ、自分だけの責任として受け止められていない。
返事をくべきか迷った。
数、文は枚だけ便箋をした。
《織さんが婚を選んだ理由は、織さんが決めることです。私はあなたの母親ですが、あなたがしたことをなかったことにはできません》
《おを返すだけで終わりではありません。なぜ族のを自分の物だとったのか、自分で考えてください》
《事と眠だけは、きちんと取りなさい》
最の文を消そうか迷ったが、残した。
責任を取らせることと、息子の体を配することは両する。
文はようやく、どちらかを捨てなくていいのだと分かり始めていた。
婚が成したのは、梅の終わりだった。
織は旧姓のへ戻った。
美も母親と暮らすことを選んだが、姓は卒業まで野のままにするという。名字が変わることで学の友に事を聞かれるのが嫌だったらしい。
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2は以のマンションをて、駅の反対側にあるさな賃貸宅へ移った。
引っ越しの、文と由紀も伝いにった。
「元姑が引っ越しを伝うって、変じゃない?」
由紀が段ボールを運びながら言った。
「あなたは姑でしょう」
文が答えると、由紀は笑った。
「私は元姑?」
「細かいこと言わないの」
織のしい部は、2DKだった。
以のマンションより狭く、具を置くと歩く所がほとんどない。それでも美は、自分の机を窓際へ置き、さな観葉植物を飾った。
「こっちの方が落ち着く」
美が言った。
「狭いのに?」
文が尋ねると、美は頷いた。
「の、いつもお父さんの嫌を気にしてたから」
その言葉に、文は胸を痛めた。
自分がらないに、孫は父親の顔を読みながら暮らしていた。
織も同じだったのだろう。
「おばあちゃん」
美が段ボールのから学案内をした。
「私、護学部を受けたい」
「そうなの?」
「お母さんには言った。でも、今はおがなくなったから、国公だけにしようとってる」
文は何も言わず、織を見た。
織は台所で器を並べていたが、会話は聞こえているようだった。
「奨学も調べています」
織が言った。
「私も仕事を増やします。でも、美に全部諦めさせるつもりはありません」
文は、自分の預をい浮かべた。
正雄の命保険。
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定期預。
達也が返済する60万円。
美へしてやることはできる。
だが、そのですぐに「私が払う」とは言わなかった。
以の文なら、孫のためなら当然だと考えただろう。
しかしをすことが、必ずしも相のためになるとは限らない。助け方を違えれば、達也にしたことと同じになる。
「必な額を全部きして」
文は言った。
「授業料だけじゃなくて、交通費や教科代も。奨学で借りると、借りないも調べなさい。そのうえで、私にできることがあるか緒に考えましょう」
美はし驚いたあと、笑った。
「おばあちゃん、急にのみたい」
「おのことを曖昧にして、ろくなことにならなかったでしょう」
織もさく笑った。
引っ越し作業が終わり、4で所の蕎麦へった。
員が伝票を置く際、「ご族でお引っ越しですか」と尋ねた。
瞬、全員が黙った。
織はもう達也の妻ではない。
文の嫁でもない。
由紀の義姉でもない。
それでも4で具を運び、事をしている。
「まあ、そんなところです」
由紀が答えた。
員はく考えず、厨へ戻った。
文は割り箸を割りながら言った。
「族って、何でしょうね」
「血がつながってる?」
美が言った。
「織さんとはつながってない」
「でも私は、お母さんとつながってる。お母さんは、おばあちゃんとつながってない。
でも私を真んにすればつながってる」
「ややこしいわね」
由紀が笑った。
織は湯呑みを両で包んだ。