"消えた実印" 第6話
のことを調べたのも、実印を持ちしたのも事実だろう」
「あなたが勝に使わないように隠したんでしょう」
由紀が言った。
「黙れ!」
達也がテーブルを叩いた。
寿司の醤油皿がね、美の作ったケーキに黒いしずくが落ちた。
文はその染みを見た。
数かけて作ったのだろう。クリームのには《おばあちゃん70歳おめでとう》と、し曲がった文字がかれていた。
祝いのを壊したのは織ではなかった。
自分の息子だった。
「達也、美を連れて帰らないで」
文は言った。
「何?」
「美は由紀のへ泊めてもらう。あなたはで帰って」
「俺の娘だぞ」
「その娘に、子どもはを挟むなと言ったでしょう」
達也は何か言おうとしたが、美が叔母のろへがった。
「今は、お父さんと帰りたくない」
達也の顔に、りともしみともつかない表が浮かんだ。
しかし誰も追いかけなかった。
玄関の扉がきな音をてて閉まる。
部には、べかけの寿司と、黒い染みのついたケーキが残った。
文は子へ座ったままけなかった。
由紀がに落ちた類を拾う。
美は声を抑えて泣いていた。
「織さんは、今どこにいるの?」
文が尋ねた。
美が涙を拭った。
「昨から、ビジネスホテルに泊まってる。お父さんが、からていけって言ったから」
文は目を閉じた。
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3、自分も織に言った。
誕には来なくていい。
族だとえない。
実印を返せ。
嫁を棒だと決めつけた。
織は度も、達也の借を文へ話さなかった。息子の母親である文を傷つけないようにしたのか、それとも証拠が揃うまで話せなかったのか。
理由は分からない。
ただつ分かったことがある。
織が守ろうとしていたから、文自が織を追いしたのだ。
翌、文は織が泊まっているホテルへ向かった。
美から部番号を聞いたが、話はしなかった。事に連絡すれば、会うことを断られるとったからだ。
ホテルのロビーから内線をかける。
「私です」
文が名乗ると、話の向こうはく沈黙した。
「しだけ、話せない?」
「今、にいるんですか」
「ええ」
織は10分ほどしてロビーへりてきた。
いのカーディガンを着て、化粧はしていなかった。目のに濃いがあり、数ほとんど眠っていないように見えた。
2はホテルの隅にあるさな喫茶スペースへ座った。
文は何から話せばいいか分からなかった。
実印を盗んだと決めつけたこと。
誕に来るなと言ったこと。
達也の話だけを信じたこと。
どれも謝らなければならない。
だが、「ごめんなさい」の言で済ませるには、自分の言葉はあまりにかった。
「内容証、届きましたか」
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織が先に尋ねた。
「ええ」
「驚かせてしまって、すみません」
謝ったのは織だった。
文は顔をげた。
「どうして、あなたが謝るの?」
「先に説すべきでした。でも達也さんの借について、どこまでお義母さんへ話していいか分からなくて」
「全部話して」
文は言った。
「もう、息子を守らなくていいから」
織はバッグからいファイルをした。
達也は、会社を3かに懲戒解雇されていた。
取引先への支払いをに自分の座へ移し、穴埋めを繰り返していたことが発覚したという。最初は数万円だったが、資のを別の借で補ううち、総額は1,200万円くになっていた。
会社は刑事告訴を見送り、定期内に返済することを条件に示談へ応じた。
達也は織に、「投資に失敗した」と説していた。
だが実際には、会社のだけでなく、消費者融やからも借りていた。
「何に使ったの?」
文の声は、自分でも驚くほど乾いていた。
「最初は、株の信用取引だったそうです」
「株?」
「損を取り戻そうとして、さらにおを入れました。そのあと、インターネットの投資話にも……」
達也は正雄がくなったに相続した300万円も、すでに失っていた。
織と美名義の貯にもをつけた。美が幼い頃から積みてていた学学費用のうち、400万円くがなくなっている。
「どうして、もっとく言わなかったの」
「私も、3かまでりませんでした」
達也は通帳を子細へ切り替え、郵便物を自分で管理していた。