"返されなかった合鍵" 第2話
「でも」
「これは私とお父さんのことだから」
千鶴は鍵を封筒へ戻した。
その、契約の裏からさなメモが落ちた。
雅夫の字だった。
《千鶴へ。部の物を捨てるかどうかは、君が決めてほしい》
謝罪も説もない。
ただ、それだけだった。
千鶴は40以見慣れた夫の跡を指でなぞった。
病で最に交わした会話をいした。
雅夫は酸素マスクので、何度か何かを言おうとしていた。千鶴がをづけると、「机」と聞こえた。
千鶴は自宅の机だとった。
通帳や保険の類は机の引きしにある、と言いたかったのだろうと解釈した。
けれど違ったのかもしれない。
雅夫が伝えたかったのは、203号にある机のことだったのではないか。
千鶴はその夜、眠れなかった。
夫がくなったしみより、らない夫が25きていたことへの恐ろしさの方がきくなっていた。
翌朝、千鶴は鍵をバッグへ入れた。
雅夫のから4目。
妻のらなかった25をけるため、千鶴はでをた。
青葉荘は、古い商を抜けた先にあった。
造階建てのさなアパートで、壁はいに塗られている。階段のすりには錆が浮き、郵便受けのには褪せた造が飾られていた。
203号は階の番奥だった。
千鶴が階段をがると、理恵が廊で待っていた。
「来られるとっていました」
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「待っていたんですか」
「今は仕事を休みました。何かあったのために」
理恵は普段着だった。紺のセーターにのパンツをはき、葬儀で見たよりし若く見えた。
千鶴は彼女の顔を改めて観察した。
雅夫より17歳ほど若い。
25なら、理恵は20代半ばだったはずだ。
「主とは、いつからりいだったんですか」
「この部を借りられたからです。当、私は父を伝っていました」
「それ以には?」
「会ったことはありません」
理恵の声に揺はなかった。
しかし千鶴は、すぐには信じなかった。
「けます」
203号のにち、鍵を差し込んだ。
く使われてきた鍵らしく、し持ちげるように回すと錠がいた。
扉を押す。
湿った畳と古い材の匂いがした。
畳。
さな台所。
押し入れ。
窓際に製の机と子。
活はほとんどなかった。蔵庫も洗濯もなく、布団も器も見当たらない。誰かが暮らしていた部というより、物置か仕事のようだった。
壁際には、さまざまな段ボールが並んでいた。
机のに、古いラジカセがある。
その隣には、透なケースに入れられたカセットテープが31本。
本ずついラベルが貼られ、付がかれていた。
《2001415》
《2001520》
《200178》
最もしいものは、の12だった。
千鶴は本をに取った。
雅夫は自宅でカセットテープなど使っていなかった。
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音楽を聴くもラジオだけで、携帯話の録音能さえ使いこなせなかった。
「ここで何をしていたんですか」
理恵は玄関からかなかった。
「ご主はに1、2度来ていました。いでも2ほどです」
「誰かと緒に?」
「私が見た限りでは、いつもでした」
「では、なぜ部を借りる必があるんです?」
「それは、私にも……」
千鶴は振り返った。
「全部はらないと言いましたよね。っていることを話してください」
理恵はしばらく黙っていた。
「最初の頃、女の子が来ていました」
千鶴の指に力が入った。
「何歳くらいですか」
「当、10歳くらいだったといます」
「主の子ですか」
「分かりません」
千鶴の臓がきく鳴った。
「その子の母親は?」
「見たことがありません。女の子はで来ることもありましたし、ご主が駅まで迎えにくこともありました」
「名は?」
理恵は答えなかった。
「っているんでしょう」
「美咲ちゃんです」
千鶴のらない名だった。
雅夫の子どもなら、2001当10歳。現は35歳になる。
妻と娘がいる方で、別の女とのにも子どもを持っていた。
そう考えれば、25借り続けた部にも説がつく。女の子と会うための所。目を避け、族にられないようにするための部。
けれど、それならカセットテープは何なのか。
千鶴はラジカセの源コードを差し込み、最も古いテープを入れた。
再ボタンを押す。
ザーッという雑音が流れた。